先月刊行されたばかりの『地域と人口減少の経済学 スマート・シュリンクという選択肢』(中公新書、900円+税、2026年)の著者・小峰隆夫氏は、2001年に国土交通省の国土計画局局長(現在は国土政策局)を務めた元官僚の人物。国土行政、地域政策に携わった経験をもつ方が、今までのような国が魅力的なスローガンを打ち出せないばかりか、スローガンを見いだせる時代ではなくなったと認めていることがまず新鮮でした。
ところが、未だに国土強靭化の夢物語が語られていたり、かなり特異な地域の劇場型成功事例をもてはやそうとしたりしています。人口データには出生と死亡による自然増減と国内外の移住による社会増減があります。それらのデータは冷徹な将来予測を示します。人口という視点では、個人が見えませんが、進学・就職・結婚・出産など、いずれも個人の選択を伴いますので、人の増減や移動は自発的・自然なものであり、特定の場所に人口が集積してその場所にしか集積の利益が生まれないのは当然です。よって、それぞれの自治体の首長や議員、職員には、それらの現実を見極めてなおかつ将来世代のためを考えて政策を立案実行しなければならない能力・器量が求められます。
そこで、著者はスマート・シュリンク(賢く縮む戦略)を提唱しています。これまでの地域政策といえば、いきおい出生率の上昇を目指したり、定住人口を増やしたりすることに重点が置かれ、ばら撒き型の短期的には受けの良い政策が行われがちです。しかし、人口減少は必然ですので、将来維持管理のツケが大きくなる社会資本を増やし続けるのがはたして賢明であるかは議論があるかと思います。
自治体による面白いメッセージの伝え方の例として損失回避バイアスを利用した八王子市の大腸がん受診率向上策を示しておきます。それによると、「今年度がん検診を受診された方には、来年度検査キットをご自宅にお送りします」では受診率22.7%だったのに対し、「今年度受診されないと、来年度、ご自宅に検査キットをお送りしません」としたメッセージの受診率は29.9%だったといいます。つまり、利得を強調するよりも損失を強調した方が、効果が大きくなるというものです。モノは言いようとも取れますが、国任せでなく、住民も頭使って暮らす自治体を選べよというのが、本書から学べたことかなと思いました。