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「世界」2024年3月号読後メモ

例年この時期は大学入試の真っ盛りです。来年度から大学入学共通テストの制度が変更されることもあって浪人回避の意識行動がいつもよりも強いようです。ですが、受験の根本にあるのは、将来どのような分野の世界に進みたいか、その準備としてどのような分野の理を学びたいかについてです。そのきっかけは何か、それは人さまざまだと思います。
私の場合は、当初社会学に関心があって現役生のときはそうした学科へ進みたいと考えていましたが、浪人生のときに大江健三郎さんの作品と出会ってから氏の同時代に対する発言に共感を抱くようになりました。それと同じころに共同通信配信の論壇時評を後に恩師となる河合秀和先生が書いておられ、社会の実態を知るだけでなく社会そのものを変えていく政治学に関心を覚えるようになってきました。
そんなこともあって大学は河合先生が所属する政治学科のある学習院へ進みましたし、入学当初から岩波書店の「世界」は欠かさず購読していました。実はここ10年ほど深い理由もなく定期購読をやめていましたが、リニューアルした2024年1月号を手に取り、同号で伝えていたガザにおけるジェノサイドは人道の危機というよりも「人類の危機」という思いを持ちましたし、やはり同号で再録されていた大江健三郎さんが大切にしている「持続する志」の必要を感じて購読を再開することとしました。
もともとこの「世界」の成り立ちには、安倍能成や清水幾太郎、久野収ら学習院関係者らがかかわっています。そのあたりのいきさつは2024年2月号の石川健治氏の「『世界』の起源」で明らかにされていますが、この部分でも今にして思えばつながるべくした縁かもしれません。
写真は「世界」とは関係ありませんが、博士号取得率の国際比較を載せておきます。人文・社会科学系の博士号取得者は人口100万人に対してわずかに10人程度。しかも減少しています。率でこそ中国を上回っていますが、人口規模が日本の10倍以上ですから絶対数では少ないのは明らかです。こんなありさまなので政治にかかわる人材の知的レベルが国際的にも劣っていると思われます。当然社会は良くなりません。博士号を取得する人材を増やすと同時に、そこまでは求めないにしても国民の学びが必要です。
さて、本題の最新号3月号の読後メモを記しておきます。
・コンスタンチン・ソーニンとゲオルギー・エゴーロフによる論文「独裁者と高官たち」によれば…「独裁の権力が個人に集中すればするほど、有能で機転のきく人間よりも無能で忠実な人間が高官になる。」
・日本は二流国へなりさがった。2023年、日本の名目GDPは、人口が日本より少ないドイツに抜かれて4位に下落。一人当たりGDPも24位(2020年)→27位(2021年)→32位(2022年)へと低下。労働生産性は、OECD38カ国中28位(2021年)→30位(2022年)へ低下。正社員の男女賃金格差は35位。世界経済フォーラムによるジェンダー・ギャップ指数は世界120位(2021年)→116位(2022年)→125位(2023年)と低迷。男性の平均賃金が韓国に抜かれ、ベトナムにも抜かれそうになった。日本は移民受け入れ国どころか、移民送出国になるかもしれない。
・TSMCは正式発表していないが、熊本進出に際して第四工場までは建設が既定路線で進んでいる。熊本の第一工場で製造される半導体は12ナノのオールド世代、第二工場では6ナノを生産する可能性がある。TSMCは最先端の2ナノの開発に成功しているとされるが、その製造はいま台湾高雄市(本誌中では「高尾市」と誤り?)で建設中の最新工場で量産化の計画。優秀な台湾人エンジニアがいる台湾でしか最先端の半導体製造ができない実情がある。台湾の新卒就職市場では、一流が平均年収2000万円超のTSMC、二流がその他の半導体メーカー、三流がシャープを買収した鴻海(ホンハイ)に行くといわれる。
・TSMCの生みの親は、蒋介石の息子で二代目総統の蒋経国。若いときは父親に反抗し、共産主義に傾倒しモスクワ留学した。結婚相手はロシア人。留学中に鄧小平と出会い親交があった。鄧小平が台湾の「一国二制度」を唱えていたのも、相手のトップが蒋経国だったため。蒋経国が、台湾が韓国のように高成長を続けるためにハイテク産業育成の号令をかけたのは1974年。工業技術院を作り、院長にテキサス・インスツルメンツ副社長の張忠謀(モリス・チャン)を招いた。
・TSMC創業者のモリス・チャン氏は浙江省寧波市生まれ。国共内戦中の1948年頃に香港に逃れ、米国留学した。ハーバード大学に進んだが、マサチュ-セッツ工科大学へ編入し、学士号および修士号を取得。テキサス・インスツルメンツ在職中にスタンフォード大学で博士号を取得。TSMCは官製プロジェクトから民間企業として1987年に起業された。製造受注型(ファウンドリー)としては初だが、第2号にあたる。第1号は半導体メーカーの聯華電子。TSMC躍進の要因は、製品の不良化率の低さにあった。委託元のAMD(CEOのリサ・スーは台湾系米国人)が一貫生産のインテルを脅かすまでになった。
・2023年11月に中国のファーウェイ製スマートフォンに7ナノの半導体が搭載されていることが判明した。それを製造したのは中国の中芯国際、開発したのはTSMCの元技師長・梁孟松。米国のF-35戦闘機には7ナノ半導体が搭載されている。米国が台湾へ中国への先端技術漏出阻止を求めるとともに、生産を米国内にするよう求めると考えられる。
・文化人類学者のD・グレーバーは『ブルシット・ジョブ』で、仕事の社会的価値と支払われる報酬の間は「倒錯した関係」があると指摘している。実際に日本でも、エッセンシャルワーカーであるほど、」給与水準が低い状況が30年以上続いている。ドイツでは、日本のような正規・非正規といった処遇の区別がない、非正規雇用がそもそもない。何時間働くか、どの時間帯で働くかなど、働く側の希望で決められる。働く側の意に反した転勤を強いることも違法とされる。

忘れやすい主権者でいいのか

大学同窓にあたる田中信孝さんの著書『行政はあなたの命を守れない』(熊日出版、1500円+税、2023年)の紹介記事が本日(1月28日)の地元紙読書面に掲載されていました。これによると、球磨川水害における事前避難の重要性を訴えられているようです。本書を読んではいないので今後の減災対策についてはどう考えておられるのか不明ですが、少なくとも浸水リスクのある土地に住宅を再建する愚は避けたがいいと思います。しかし、現実はそうした土地に現防災担当相の兄が代表を務める建設会社が災害公営住宅を建てたとかいう話もあって、どんなものなのかなと感じます。
以前著者ご自身からは同書で県政批判も盛り込んだとお話を伺ったことがありましたが、本日は奇しくも現知事の77歳の誕生日になります。なぜそれを覚えているかといえば、ロアッソ熊本のホームゲーム観戦のためスタジアムへ来場されたおりは、必ずナンバー28のレプユニ着用だったからです。なんでもその数字は自分の誕生日であり、ラッキーナンバーだからだと伺ったことがありました。ともかく記事は隠れたバースデープレゼントになったようです。
それでもって、スタジアムといえば、隣県の長崎市においてサッカースタジアムを中心とした大規模複合施設「長崎スタジアムシティ」が今年完成します。施主はTV通販大手企業ですが、施工には「頭悪いね」発言で有名な、先日議員辞職した方が会長を務めたこともある建設会社も加わっています。本人がすっぱり辞めたのは定数減で次回は小選挙区から出られないのもあったでしょうが、創業会社の事業への悪影響を一番に考えたのではないかと思います。前議員は、政治資金パーティー収入において4000万円超の裏金のキックバックを受けたと、東京地検特捜部から政治資金規正法違反の容疑で略式起訴されたわけですが、冒頭の現防災担当相も熊本地震前の2016年1月に3500万円の寄付不記載で同法違反の疑いで告発を受けた報道があったことを思い出します。
大きな自然災害があると、その対応に紛れてその他の問題を忘れてしまうのもなんだかバカにされた話だなと思います。

学際的な改革の視点

憲法学者の木村草太氏著の『「差別」のしくみ』(朝日選書、1800円+税、2023年)は、法律家が陥りやすい、法制度の形式に注目する狭いギョーカイの視点に留まらず、社会心理学や哲学・法哲学の分野の研究成果を見渡した論述が豊富な本でした。おかげで、差別の仕組みの悪性がより複眼的に解明されて、政治や司法判断の足りない部分の理解も進みました。さまざまな法制度を所与のものとしてその枠内で斬った張ったの立ち回りも重要ですが、取りこぼされた正義はないのか、考察して社会を変革していく行動も一方において必要です。そのための材料を提供していくのが、研究者の務めですし、それを学んだり伝えたりする役割はフツーの市民にもできそうです。革命家とまではならないにしても、だれしも学際的視点をもった社会変革運動をもっと気軽に行いたいものです。

これほど相応しい仕事はない

愛子内親王が学習院大学卒業後の2024年4月より日本赤十字社に就職することが昨日報じられました。これほど相応しい仕事はないと思います。たいへん気の早い話ですが、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)会長及び日本赤十字社社長を歴任された、現・日本赤十字社名誉社長の近衞忠煇氏のように、将来、国内外において社会の協調と平和の実現・維持に貢献できる役割を果たしていただけないかと期待しています。
東日本大震災翌年の12年前に学校法人学習院主催の公開講演が熊本県で開催されましたが、当初、講師の候補として学習院大学卒業生であり当時IFRC会長だった近衞忠煇氏から一旦内諾を得ました。しかし、その後、突発的な海外出張が多い要職にあることから、迷惑をかけてはならないと辞退されてしまいました。その頃の同氏の関心が強かったのは「原発事故を想定した国際支援への取り組み」でした。「国際赤十字としては政治的に中立を保ち、原発については賛否を示さない」とも発言していました(毎日新聞2011年12月10日)。ちなみに同氏の実兄である元首相の細川護熙氏は、同時期に『世界』(2012年1月号)に「政府は「脱原発」に舵をとれ」のタイトルで寄稿していました。
それで、近衞氏から講師内諾を得た直後の時期に、日本赤十字社熊本県支部へ挨拶のため訪ねたことがあります。その際応対してもらった同支部参事の梶山哲男氏から支部創立120周年記念事業として2010年に編集出版された『西南戦争と博愛社創設秘話』を贈られ、読む機会を得ました。それによると、西南戦争において小松宮彰仁親王殿下率いる官軍が、激しい戦闘のすえ熊本県北に残っていた敵軍の薩軍傷者の治療を借りた民家で始めており、それを引く継ぐ形で、佐野常民らが総督の有栖川宮熾仁親王殿下の許可を洋学校教師館(ジェーンズ邸)で得て、日赤の前身である博愛社を設立させたとあります。そのため、県北には複数箇所で救護の言い伝えや日赤発祥地標示(正念寺、玉名女子高=仮県庁跡地、徳成寺)があります。

自分が決める・変える

きょうは台湾総統選の投開票日です。日本の選挙と異なるのは、その投票率の高さです。日本の国政選挙では期日前投票や在外投票の制度がありますが、台湾ではそれがないにもかかわらずはるかに上回る要因はどこにあるのか、学ぶべき点が多いと感じます。
先日読んだ「世界」(2024年1月号)で、上智大学法学部教授の三浦まり氏が「法学部で政治学を教えて20年になるが、法律を自分たちで作り替えることができる、政治によって社会が良くなる、自分たちも政治を良くすることができる、と思っている学生はほとんどいない。法秩序は学び、受け入れ、守るものであり、それをおかしいと疑ったり、まして変えてもいいものだとは思っていないのである。どうやらわたしたちの社会は、根本的なところで政治主体性をもつ市民を育成することに失敗し続けているようだ。」と書いていました。法学部の学生のなれの果ての一類型である法律専門職に就いている方の中にもそういう傾向が見られますから、ハナから主権者意識が学校教育で身に付いていないのかもしれません。
それどころか社会的弱者を蔑む冷笑的なレイシストに身をやつした大人に出くわすこともあります。そういえば、先日、山口市の「はたちの集い」には、アイヌの民族衣装を着用した人を揶揄して札幌や大阪の法務局から人権侵犯を認められた女性国会議員が、招かれていました。そして何をその場所で話したかというと、臣民意識を求めて先の大戦を美化する内容でした。こういう大人になりたくないなという思いを抱いた参加者がいてくれたら、反面教師の意味もあったかもしれませんが、それを望むのは淡い期待でしかありません。権力者に操られるのではなく自分で決める・変える大人が増えないと社会は良くならないと、言い続けていくしかありません。
写真は台北市。2018年7月撮影。

ダンバー数と年賀状、宗教的無色、CF

高齢者が終活のために年賀状を差し出すのを取りやめる一方、現役世代のなかにもインターネットを介した連絡手段の普及を理由にやはり取りやめる動きが出ているのを、今年は特に感じました。私の場合は、今のところ、自分自身の生存証明の意味合いもあって、お知らせしたい方に絞って差し出しています。宛先には後期高齢者の方が多いので、返信はもともと期待していません。こちらが気づかないうちに鬼籍に入られた場合で気の利いた身内がいれば、その旨を知らせてくれることもあります。当方側が一方通行の顧客にあたる取引先関係にはこちらから差出も返信も行いません。そんなわけでだいたい例年150通(人)以内に収まっています。この150人というのは、英人類学者のロビン・ダンバーの名前に由来する「ダンバー数」と言われます。ダンバーは、現世生存人類(ホモ・サピエンス)が社会的信頼関係を築けるのはせいぜい150人ほどと言っています。
本日の朝日新聞の社説のなかでも、この「ダンバー数」に触れた記述がありましたので、アレと思いました。社説では、大企業における不正の温床について書かれていたのですが、大学や高校の運動部でも部員が300~400人もいるところで、昨年不祥事が明るみになったことを思い出します。
昨年は、ダンバー氏の著書の『宗教の起源』を読み、ずいぶん刺激を覚えました。それで、本日の朝日新聞紙面に話題を戻すと、社説の対向面のオピニオン欄「交論」コーナーで、紛争解決研究者が、日本は紛争解決にどういう貢献ができるかという記者の問いに、「日本は宗教的な色がほとんどない。(中略)仲介役に適しています。」と答えているのが、なるほどなと感じました。さらに同じコーナーで、国際人権法研究者が、「クリティカル・フレンド」(=相手のために耳の痛いことでも忠告してくれる友人)を大切にする重要性を述べていました。
同じ価値観だけの居心地のいい関係も大事ですが、それを超える異質な集団との良好な関係も大事です。けさはいろいろ考えさせられました。
https://www.asahi.com/articles/DA3S15834482.html
写真は記事と関係ありません。イギリス、ロンドン動物園(1994年1月)

熊本市国際交流会館で無料相談会

毎月第1水曜日と第3日曜日の13:00~16:00、熊本市国際交流会館2F相談カウンターにおいて、熊本県行政書士会会員の申請取次行政書士が、無料相談に応じています。
1月10日(日)13:00~16:00には、当職が相談員として対応いたします。
https://www.kumagyou.jp/?page_id=220
https://www.kumamoto-if.or.jp/plaza/default.html
https://www.kumamoto-if.or.jp/kcic/kiji003277/index.html
写真は記事と関係ありません。イタリア・ローマ、スペイン広場(1990年12月撮影)。

ホントおめでたい

熊本県の公式LINEの今年初(1月4日)の投稿が阿蘇神社参拝を勧めるものでした。これをおかしくはないかと気づける素養が関係者にはないのかと残念に感じました。巷のSNS投稿においては、還暦過ぎのいい大人が陰謀論者の駄本をありがたがっているのもよく目にします。そういうマーケットがあるからこそ、荒唐無稽の歴史言説が商品になるのかもしれませんが、踊らされている人たちもそれなりの教育は受けてきただろうに、今になって身に付いていないのはなぜなんだろうと思います。その程度の知性で、変な使命感から政治家になったりすると、余計始末に悪いものです。
過去についても正しく学べていなければ、当然のことながら未来への対処も誤ります。昨年11月に、運転停止中の石川県志賀町(このたびの能登半島地震で震度7を記録)にある北陸電力志賀原発を訪問した経団連会長が、「一刻も早く再稼働を望む」と述べていましたが、昨日(1月4日)にあった賀詞交歓会では、なんらその発言について釈明をせず、それを問い質して報道したマスメディアも確認できませんでした。経済界トップですらこうした塩梅です。
ホントおめでたい人材に恵まれたわが国において、教育やジャーナリズムの役割が重要だなあと感じます。