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『少数派の横暴』読後メモ

平日ならさして混まないだろうと、九州国立博物館で開かれている特別展「はにわ」を観に行った往復の電車内で、共にハーバード大学教授のスティーブン・レビツキーとダニエル・ジブラットが著した『少数派の横暴―民主主義はいかにして奪われるか―』(新潮社、2700円+税、2024年)を読み終えました。世界はトランプ政権の再登場に揺れているわけですが、それだけにそれを可能にした要因を歴史的に知り、どう対処していくべきかを知ることは、米国に限らずどこの国民にも必要なことだと思いました。
著者の見立てによると、米国は世界的に例を見ない反多数決主義的な民主主義国家になっているといいます。少数派がルールを悪用して政治を支配することが可能になっているというわけです。たとえば以下の点があります(p.227-228の記載参照)。
・有権者による直接選挙ではなく、選挙人団を経由した大統領選出なので、有権者が投票で示した多数派とは異なる候補者が大統領に選ばれる可能性がある。ゴアやヒラリー・クリントンが敗れた例が実際にあった。
・同等ではない規模の州に同等な代表権が与えられた、つまり小州バイアスが強力な定数不均衡の上院がある二院制に加えて、議会での少数派の拒否権(フィリバスター)がある。銃規制世論と議会との乖離があり、法改正につながらない。
・単純小選挙区制を採用しているため、相対多数の票を得た者たちによって多数派が形成され、ときには全体として得票数の少ないほうの政党が議会の多数派となる場合もある。恣意的な区割り(ゲリマンダー)や農村部バイアスも指摘できる。
・最高裁判事に終身在職権が与えられているため、判断が社会の変化に対応していないし、認知症となっても辞めさせるのが難しい。もともと有権者に選ばれるわけでもない。
・合衆国憲法は改正へのハードルが高い。改正のためには議会両院における絶対的多数の賛成(3分の2)に加え、4分の3の州の承認が必要。
その他にも有権者登録や期日前投票などについても問題があると指摘しています。本書では問題点を指摘するだけでなく、p.243-246にかけて具体的な処方箋も示していますし、国民の行動にも期待をかけていますから、まったく絶望の書というわけでもありません。米国建国以来の共和党と民主党の歩みの歴史(これは同時に選挙制度や議会制度の歴史でもある)を学べた点でも大いに参考になりました。

世界中から尊敬されない4年間の始まり

今度2度目の米国大統領を務めることになった、78歳の高齢者男性が、就任演説で以下のような演説を行っていました。
From this day forward, our country will flourish and be respected again all over the world. We will be the envy of every nation, and we will not allow ourselves to be taken advantage of any longer. During every single day of the Trump administration, I will, very simply, put America first. (この日からわが国は繁栄し、世界中で再び尊敬されるだろう。全ての国の羨望の的となる。米国がこれ以上つけ込まれることを許さない。トランプ政権下の日々、私は非常に明快に米国を第一に据える。)
気候変動対策の国際ルール「パリ協定」からの離脱に向けた大統領令への署名ひとつとっても世界にとっては迷惑きわまりない行動であって、とても世界中で尊敬されるとは思われません。この人物は、人種やジェンダーをめぐるマイノリティーに対する差別の防止についても否定的であり、こうしたヘイト志向は自国民からもまったく尊敬されないとしか考えられません。
こういう人物をおだてて他国の首脳が無理に取り入ろうとする必要はないかと思いますし、この人物におもねる巨大企業の経営者についても監視して消費者として批判することも大切なのではないかと思います。

キース・ヘリング展を堪能

お気楽な旅で重宝する「旅名人の九州満喫きっぷ」を利用して、現在福岡市美術館で開催中の「キース・ヘリング展」を昨日観てきました。往路の電車車中では、伊勢崎賢治著の『14歳からの非戦入門』(ビジネス社、1700円+税、2024年)を読了しました。ガザのジェノサイドその他紛争地域で日々生命が失われている愚行を一刻も早く止めるための交渉が必要です。それと、戦争が終わってからの統治がいかにたいへんかということを、本書で改めて学ばされました。有事を煽る勢力に乗せられることは危険です。在日米軍が自由に第三国へ出撃できる有事巻き込まれの危険性や自衛隊員の活動にかかわる法制の不備など、国内で論議すべき課題が多いことも指摘していました。
さて、「キース・ヘリング展」についてですが、彼は1980年代を代表するポップアーチストであり、同世代の人たちの記憶に残っている作品が多いのではないかと思います。リアルな肌の色や性別など外見の要素を取り払い、ベイビーや皮膚の下にある人間の姿を描いた作品からは、それこそ愚かな戦争や差別とは無縁の希望の力が感じられ、優しい気持ちになれます。
ニューヨークの地下鉄駅のポスター掲示板に残した初期の素描作品を紹介するコーナーでは、現地の街の音を流していて雰囲気を出していました。平日の昼間ということもあって意外と館内は空いていて、許可された写真撮影も楽しめました。
曲がりなりにも反核機運が高かった80年代初めの日本と、2000年に一度だけ訪ねたニューヨークを懐かしく思いました。

自分の国語力を省みろ

昨日(3月5日)と本日(3月6日)の朝日新聞紙面に、国語力について参考になる記事があり、印象に残りました。
まず昨日の方は、私より少し若い方だと知ってその驚きもありましたが、TVでもロシア問題の解説で顔を見る機会が多い、駒木明義論説委員が「新聞記者の文章術」欄で書かれた記事です。そこでは、「自分が書いている文章がわかりやすいかどうか自信が持てないときに、時々私が試してみることがある。それは、外国語に移してみるという方法だ。」とありました。確かにネット上の自動翻訳を利用してみると、原文の言わんとするところが不明瞭であれば、変てこな訳文しか返ってきません。このように、自分の国語力の検証方法として有益だと感じた経験が、私にもあります。加えて、大学時代の所属ゼミの教授も同じようなことを言われていた覚えがあります。その教授は、日本語訳本で意味が通らない箇所を原書で当たってみると、だいたい原文そのものに問題があるものだと、言われていました。言いたいことが多すぎて一文が長すぎると、結局何を伝えたいのかわかりませんし、トランプ流に短く断言しすぎても、前提や周辺の情報が伴っていないと、単なる遠吠え的な発言に終わってしまうかもしれません。トランプの言葉は単純で平易であり、その言葉を信奉者らと共に口にさせることで、一体感に酔わせるだけが目的のように思います。バイデンではなく、あえてオバマを例に取り上げると、彼の言葉は含蓄に富み論理的ですが、あまり理知的ではない国民が大勢を占める社会では通じないのかもしれません。
次いで本日の記事の方ですが、内田伸子お茶の水女子大学名誉教授に聞いた、シリーズ「早期教育へのギモン」の5回目の見出しには「英語読解 日本語の読み書きが土台」とありました。「早く英語に取りかかればいいというのは誤解だと考えています。カナダ・トロント大の言語心理学者らがかつて、日本からカナダに移住した子どもを10年間、追跡調査したことがあります。」として、「学業成績が一番高かったのは中学から行った子どもたちでした。」と紹介していました。つまり、国語力が「考える力」の土台というわけです。
どの言語であれ、自分の国語力を公開する行為というのは、自分の「考える力」の度合いを晒しているのと等しいということになりますから、SNS投稿もリスクがあるかもしれません。かといって国語力に自信がないからと、むやみに写真や動画をアップすると他人の権利を侵害することもありえますから、とにかく用心することです。
写真はワシントンD.C.のホワイトハウス。2000年5月撮影。

利用者目線を忘れるな

昨日、地元首長が理事長の社会福祉法人の評議員会へ出席しました。この日の議案の1号と2号は、同法人の一つの事業を3月末で廃止することと、それに伴う定款の一部改正となっていました。議案書に書かれた廃止の提案理由は、「入所者減少に伴い、養護老人ホームと統合し経営の安定化を図るため。」といたって簡潔なものでした。議事においてもっと詳しい説明があるかなと期待しましたが、法人側からの発言は議案書の記載通りで終わり、質疑応答に入りました。
そこで、さっそく現在の入所者の処遇や廃止事業が対象としてきた入所者の新規募集の行方について質問を行いました。結果、現在の入所者全員を継続する事業で受け入れるという回答を得ました。継続事業では入所対象には本来ならない利用者も全体の20%以下なら特例で養護契約入所ができるということと、その範囲内で特例の新規入所も行われることも確認できました。
これが、株式会社の株主総会であれば、株主の議決権行使の参考書類として、事業廃止に伴う財務的影響のみならず顧客対応や社員雇用への影響について詳細な説明が行われるのが常識です。対外的なイメージ悪化がないのかについても株主へ理解を求める説明がつくされるのが常識です。
今回の社会福祉法人の評議員会は、まさに株主総会に相当する最高議決機関です。さらにいえば、評議員会へ上程する前には理事会審議が行われます。株式会社に例えると、業務執行責任者である取締役会がそれにあたります。理事会メンバーには首長や福祉部署の部長、厚生関係の委員を務める議員らが入っているわけですが、果たして理事会では廃止に伴う入所者や職員に対する影響を問う質問はなかったのか気になりましたし、冒頭に記したような提案理由の議案書を評議員会へ出すことに誰も異論を唱えなかったのかと疑問に思いました。
最近、ロアッソ熊本のホームゲーム当日の光の森駅-スタジアム間のシャトルバスが今季から前日正午までの予約申込制となり、乗車の使い勝手が非常に悪くなりました。これも利用者目線を完全に忘れた愚策極まりないもので、クラブの事業才覚の欠如を示す出来事でした。
本日あたりは株価が34年ぶりに最高値を更新したとメディアが浮かれていますが、これなんかもそれぞれのドルレート換算で出したら、まだ更新とはいえないわけで、目先の文字数字だけ見て実を見ないで過ごすバカがなんと多いものかと気が滅入るばかりです。
写真はニューヨーク証券取引所。2000年5月撮影。

多多益善?

写真は、韓国の国立現代美術館果川館(1991年9月撮影)。初めて韓国へ一人旅したときに、往きはソウルから路線バスで、帰りは最寄りの地下鉄駅までタクシーに乗って、途中相乗りが2組あって満車になる経験がありました。ここの代表的な常設展示作品といえば、1003台のテレビモニターが積み上げられた塔になっている、ナムジュン・パイクの「多多益善(タダイッソン)」です。「多多益善」とは、「多ければ多い方が良い」という意味で、「より多くの人に見てほしい」という希望で名づけられました。また、1003の数字は韓国の建国記念日である10月3日の開天節に連なり、自国の発展を願う気持ちも込められているそうです。同館のらせん状の通路から鑑賞できます(らせん状の通路といえば、ニューヨークのグッゲンハイム美術館の構造もそうです。2000年に入館したときに、やはりナムジュン・パイクのビデオアート作品を観た覚えがあります)。ビデオアートの先駆けで1980年代前半頃、日本国内でもその活動がよく取り上げられていました。作者自身、日本で暮らした経験(1950~56年)もあります。さて、今の時代は多多益善といえるのか、それを問いかける作品になっていると思います。

『侵食される民主主義』読書メモ

本書は、米国内に非リベラルのポピュリストの大統領を有した時期に執筆されています。著者の危機感は、ロシアの怒り、中国の野心による権威主義の台頭と並んで、民主主義の劣化をもたらす米国の無関心にあります。つまり国外からの権威主義の拡大を許してしまう背景には、国内の民主主義の衰退があります。ここでいう国内は米国のことですが、ヨーロッパや日本などにもいえることであり、リベラルな規範と憲法に立脚した民主主義の拡大は、世界の平和と安全にとって重要な基盤と訴えます。無関心への対抗として投票率を上昇させる選挙制度の改革を具体的に提言しています。メイン州の優先順位付投票制は初めて知った仕組みでした。一方、電子投票システムが晒されるハッキングの危険性も警鐘を鳴らしていて、監査や再集計が可能な紙の記録を残すことを強調しています。一見強靭に見える独裁者や一党独裁体制についても透明性の欠如は破綻に導くきっかけとなります。独裁者の政治体制は案外不安定であり、他の独裁者の没落には著しく狼狽するほど、心の底では自信ないと著者は見ています。最近では2018年5月のマレーシアの民主化が希望として紹介されてもいます。
下巻P.3-8 米国外交官ジョージ・F・ケナンが提唱した8つの戦略原則(1946年にモスクワからワシントンへ送った長文電報より)
第一に、脅威の本質を把握する必要がある。
第二に、専制支配者の脅威が持つ規模、動機、要素について、民主主義社会を教育しなければならない。
第三に、中国とロシアによる軍事力の急速な拡大と近代化を受け、民主主義諸国は軍事的決意と能力を集団的に強化しなければならない。
第四に、ロシアと中国の指導者と社会に、敬意を持って接するべきである。
第五に、可能であれば、腐敗した指導者を社会から切り離し、慎重にターゲットを絞った手段で専制的な政権を抑止すべきである。
第六に、民主主義の価値に忠実であり続けなければならない。
第七に、戦後の自由民主主義秩序を今の時代にあわせて再構想しなければならない。
最後に、自国の民主主義を修復・強化し、他国にとって模倣に値するものにしなければならない。
下巻P.26 アメリカが巨大な専制的ライバル二カ国と異なるのは、技術的な才能や創造的なエネルギーに満ち溢れた人々を世界中から惹き付ける能力があることである。このような才能や起業家精神の導入の流入に門戸を開いておくことが、アメリカが偉大な国であり続けることにつながる。
下巻P.41-47 クレプトクラシーからの回復――10段階のプログラム
クレプトクラシー(民の資金を横領し支配階級が富と権力を増やす腐敗した政治体制)と闘うために最も重要な条件は、政治的な意志である。クレプトクラシーは、単なる大規模な汚職ではない。国境を越えて盗まれた資金を移動させ、資金洗浄することである。クレプトクラシーが横行するのは、単に出身国の法制度や政治制度が腐敗しているからではない。世界の富裕な民主主義国における強力な利害関係者(アメリカ州政府は言うに及ばず、「銀行家、不動産ブローカー、会計士、弁護士、資産管理人、広報活動エージェント」)が、腐敗に乗じて金儲けをしようとするからである。この共犯関係は、民主主義を衰退させ、危険にさらしている。「推定千人ものアメリカのロビイストが外国勢力のために働いており、年間5億ドルの報酬を受け取っている」と言われている。
1 匿名のペーパーカンパニー廃止
2 匿名での不動産購入の禁止
3 外国代理人登録法の近代化と強化
4 外国の個人や団体による政治献金の禁止と監視強化
5 元アメリカ政府職員や議員による、外国政府のためのロビー活動や代理行為の禁止
6 マネーロンダリング防止システムの近代化
7 アメリカなど法の支配に基づく国々での、大規模汚職とマネーロンダリングに対する監視・調査・起訴のための資源増強
8 クレプトクラシーとの戦いと「ゴールデン・ビザ」発給停止のための、民主主義国間協力の強化
9 ロシアをはじめとする国々でのクレプトクラシーに関する市民の意識向上
10 世界中で汚職の監視・抑制のために活動する調査報道機関、NGO、公的機関に対する国際支援の拡大
下巻P.177 権威主義政権を崩壊させる2つの要因
1 長期的な変化・・・社会経済的な発展が、教育を受け、資源を持ち、要求の多い市民を作り出す。その結果、まず都市部、専門職階級、そして若者(とくに今日のスマートフォン世代)の間で反対勢力が結晶化する。
2 政権内の分裂・・・それによってリーダーシップが破壊され、新たな協力関係を築く道が開かれる。
写真は2000年5月撮影のニューヨーク上空。奥に世界貿易センタービルのツインタワーが写っています。

熊本県事業復活おうえん給付金

けさの新聞各紙に事業復活支援金の申請締め切りを知らせる経済産業省・中小企業庁の広告が掲載されていました。申請そのものの締め切り日は5月31日までですが、登録確認機関による事前確認の実施は5月26日までとなっていますので、注意が必要です。この支援金の交付を受けた場合は、都道府県が実施する給付金の申請も検討したいところです。熊本県が実施している熊本県事業復活おうえん給付金の申請締め切りは7月31日までとなっていますが、この申請にあたっては事業復活支援金の振込みのお知らせハガキの画像が必要になります。
熊本県事業復活おうえん給付金を申請すると、提出内容に不備がなければ2週間程度で振り込まれると、Q&Aに載っていました。実際、当事務所(個人事業者)・当社(中小法人)は、4月1日に申請して4月18日に入金されていました。
2022.4.25追記 熊本県事業復活おうえん給付金事務局である熊本県商工会連合会より4月22日付けの「熊本県事業復活おうえん給付金交付決定及び確定通知書」(A4用紙1枚)が窓付きの角2型封筒で4月25日に着信しました。
写真は、投稿内容とはまったく関係ない、ニューヨークのメトロポリタン美術館(2000年5月撮影)です。私がかつて道楽で取得した博物館学芸員免許では到底太刀打ちできない収蔵品を誇る施設です。