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専門家選びは難しい

熊本県弁護士会所属の若手弁護士の方がこのたび日弁連ゴールドジャフバ賞を受賞されたと、本日(3月3日)の地元紙が報じていました。この方は、元技能実習生死体遺棄事件で、被告の主任弁護人として最高裁で昨年3月24日逆転無罪判決を勝ち取っています。私もこの方の存在については、事件発生直後の2020年11月から救援に動いていた先輩行政書士の方の講演で聴いて知っていました。最高裁の自判無罪判決を得るのは稀有なことで、本件は戦後25件目にあたります。2018-2022年の最近5年間の最高裁の事件処理件数に限っても、高裁から最高裁への上告件数は1万件ありますが、そのうち最高裁が弁論決定したのが16件(0.16%)、破棄自判無罪となったのは2件(0.02%)に過ぎません。ただでさえ支援が行き届かない技能実習生制度のもとでの孤立出産が罪に問われた事件から被告女性を救った活躍は素晴らしいと感じます。
日常生活において多くの人は裁判とは縁がありませんが、いざ係争となると、いかに仕事ができる弁護士と出会えるかが重要です。私も会社員時代に法務的業務に従事して、顧問を委嘱する弁護士を探したり、はたまた解嘱したりした経験があります。今回の受賞報道に接して、法務担当時、世話になったある優秀な弁護士を思い出しました。その方は、1993年3月25日の水俣病第三次訴訟2陣熊本地裁判決において、チッソ・国・熊本県に勝訴の判決を得た際の弁護団の若手弁護士の一員として活躍されています。その判決は賠償金の仮執行と仮執行の免税がついているものでした。弁護団は事前に周到な準備を進めて、和解に応じようとしなかった国に打撃を与えるため、国に賠償金を支払わせる仮執行に成功しています。国が執行金相当額を熊本法務局へ先に供託すれば、仮執行が免税されますが、判決直後に国の現金が保管してある熊本中央郵便局へ執行官と弁護士が出向いて差押えれば、仮執行が可能になるというものでした。しかも、執行金を預金する先の銀行から金銭をカウントするプロと紙幣をカウントする機械も伴っています。そのあたりの攻防の模様は、水俣病訴訟弁護団編『水俣から未来を見つめて』(1997年刊)に書かれていますが、このように鮮やかに国の現金を差押えする前例はなく、読むと法廷ドラマのようなドキドキ感があります。
ただ一つ残念なのは、私が世話になり、上記の手記を執筆した弁護士とは別の方ですが、同じ当時の若手弁護士のメンバーの一人で、先ごろまで全国B型肝炎訴訟熊本弁護団長だった人が、口座の預かり金から約9000万円着服したという報道が今年ありました。30年後にこうした事件を自らしでかしてしまう弁護士もいるわけで、資格だけで資質を体重みたいに推し量ることはできず、弁護士など専門家選びはなんとも難しいものです。
写真は記事と関係ありません。ウィーン市内で見かけたコイン式体重計(1993年1月撮影)。同種のものは昔モスクワ市内でも多数見かけたことがあります。
https://kumanichi.com/articles/1345422
https://kumanichi.com/articles/1314340

海洋放出の損得勘定は?

東京電力福島第一原子力発電所から出る汚染水を大量希釈したALPS処理水を海へ排水することが問題になっています。これによって水産業界において対中輸出ができなくなる影響が出ています。
この一連の流れの損得勘定はどうなっているのか気になりましたので、いろいろデータを見てみました。
まず、日本から中国への2022年のJETRO発表の輸出額ですが、1848億3070万ドル(為替レート131.46円/ドル)となっています。品目別内訳では、ほとんどが工業製品(電気機器:構成比27.2%、製造用機器・機械類:同20.0%、自動車・部品:8.4%、光学機器等:7.5%)となっており、水産物を含む食品は1%にも達していません。中国からの日本への同年の輸入額は1,887億673万ドルで、そこでは水産物を含む加工食品が構成比1.3%となっています。エネルギーや貿易全体の政策を所管する経済産業省にとっては、水産物の輸出の重みは小さいことがうかがえます。
農水省の統計では、2022年の中国向け水産物の輸出額は871億円、香港向けが同755億円となっています。
ところが、中国へ輸出する水産食品関連企業727社の売上高に占める中国向け輸出の割合は平均で55.9%ということでかなり中国依存度が高い傾向があります。水産食品関連業界に限って言えば、かなり影響が大きいことが分かります。
一応政府も漁業者らの風評被害に対処するため800億円からなる基金を設置し、損害が出れば東電が賠償するとなっていますが、基金総額の規模は上記の農水省統計にある1年間の輸出額におよびません。
そこで、原子力市民委員会が出している陸上保管費用と汚染水処理対策委員会のもとに設置されたトリチウム水タスクフォースの報告書で示された海洋排出費用を示してみます。2022年夏から廃炉予定である2051年までに発生する汚染水の長期保管用タンクの建設費用は374.2億円となっているのに対して、海洋放出(希釈あり)費用は18.1億円となっています。
損得勘定だけからいえば、一見して海洋放出よりも費用が高い陸上保管を続けた方が、新たに発生する貿易損失や風評被害賠償の見込み額よりも安上がりのように思えます。
写真は、ウィーンの氷結したドナウ川(1993年1月撮影)。スケートを楽しんでいる市民の姿が写っています。この近くにIAEA本部があり、建物の前まで行ったことがあります。

「偉大」な指導者はなおさら疑え

昨日、熊本市教育委員会が、2019年4月に自殺した熊本市立中1男子生徒の小学6年時の担任で、複数児童に不適切な指導を繰り返していた男性教諭(60)を懲戒免職処分にしたことが、報じられました。体罰や暴言、不適切な言動など、市教委が認定した事例だけでも計42件に上ったといいます。なぜこうした人物が学校現場で長年勤務できたのか、まったく理解できません。それどころか、この処分が出る直前まで部活動の指導にも携わっていたといいます。全国大会出場レベルの部活動を熱血指導する教師が、カルト教団の教祖のようにいつしか不可侵の存在になりかねない危険性もあるわけで、やはり犯罪の芽は早めに摘むことが大事だと思います。
写真は、ウィーンの美術史美術館の館内(1993年1月撮影)。絵画作品は、ピーテル・ブリューゲルの「雪中の狩人」。

「監」違い

最近、行政機関に所属する役職名において「監」という文字が入っている例を見かけます。「かん」という読みでの「監」の意味では、第1に「見張る。取り締まる。」、第2に「取り締まる役目・役人。」、第3に「囚人を閉じこめておく所。」となっていて、「けん」あるいは「げん」という読みでは、歴代中華王朝における行政機関および官名で使われているようです。響きとして上から下への目線やいかめしさを感じます。それは仕方ないにしても、その職責に見合った能力を持ち合わせているかどうかが重要で、話を聞いてみても適切な回答が返ってこなければ、「なあーんだ」ということにもなります。こうした役職名を持っている人は「監」違いされないよう研鑽を積む責務があります。写真は、ウィーンの街角で見かけたコイン式体重計(1993年1月撮影)。同種の体重計はモスクワでも見た覚えがあります。