基隆」タグアーカイブ

あんぱんで目を洗う

銀座木村家によると、昨日4月4日は「あんぱんの日」なのだそうです。今から150年前の1875年(明治8年)4月4日に創業者木村安兵衛が明治天皇へ「桜あんぱん」を献上したことを記念したからだと、そのサイトに由来が記してありました。NHK朝ドラの「あんぱん」が今週放送スタートしたこともあって、パンが人々へもたらす幸せ感に心が癒されます。
しかし、日本の近代化と製パン業・製菓業などの大企業の発展過程を見てみると、軍部との結びつきが強固だったことが意外と知られていません。平賀緑著『食べものから学ぶ現代社会 私たちを動かす資本主義のカラクリ』(岩波ジュニア新書)を読むと、日本では1885年ごろから機械製粉の小麦粉輸入が急増し、その主要商品は軍用パンやビスケットだったとされています。現在まで続く製パン業・製菓業の大企業の多くが帝国日本の海外進出に伴って誕生しています。具体的には、明治製糖(1906年)、森永商店(1910年)、味の素(1907年 創業時は鈴木製薬所)、日清豆粕製造(1907年 現・日清オイリオグループ)など。
しかも、日本の製粉業や製糖業、製油業(植物油)のみならず、原料を輸入する商社は、財閥系大企業による寡占でしたし、近代化を急ぐ政府はこれら新旧財閥を保護してきました。戦後の食料システムも基本的に同じです。現在の世界人口のカロリー摂取の半分以上は、小麦、コメ、トウモロコシという、たった3種類の作物で占められていますが、巨大企業と取引のマネーゲーム化の下で生産加工流通されているのが実情です。
それはともかく、朝ドラの「あんぱん」は、花粉症の時期ということもありますが、格好の洗眼剤となっています。主人公の朝田のぶちゃんが、長期の海外出張に赴く商社マンの父を駅まで見送って、その父が帰郷の最中に亡くなったという知らせが届く展開は、戦時中の私の母が体験した父親(私にとっては祖父)との思い出と重なり切なく思いました。
私の母の両親(私の母方の祖父母)は1930年に結婚、神戸港に近い西宮市甲風園に居を構え暮らしていましたが、開戦後、商船会社勤務の祖父は日本と南方を結ぶ軍の輸送傭船に乗務することもあって、家族は熊本市国府に留守宅を移すこととなりました。母と生前の祖父との別れは1943年の秋でした。1週間ほどの休暇を留守宅で家族と過ごしたのち、幼い子どもたち(私の母たち)だけで戦地に戻る父親を国府電停で見送ったといいます。祖父は1944年1月15日にフィリピン・マニラから台湾・基隆への途上バシー海峡で最期を迎えたので遺骨も家族の元へは帰ってきませんでした。
当時、国府の自宅は現在の宇土内科胃腸科医院の付近にありました。電車通り沿いに宇土屋旅館とその旅館の貸家数軒が並んでおり、その貸家の一軒で母たちは暮らしていました。1945年7月1日の熊本大空襲で一帯は焼失、多くの犠牲者が出ます。母たちは、その半月前に同地から祖父の実家がある不知火町へ移ったために、その難は逃れましたが、続く同月27日の松橋空襲を間近で体験しています。命を失う危険は当時だれにでもあったのです。
写真は現在の国府電停(2025年3月21日撮影)と基隆港(2018年7月28日撮影)。

著作権者探索の一元窓口

けさの朝日新聞紙面で目を引いたのは、「著作権対応へ一元窓口 政府計画 データベースを整備」の記事。どういうことかというと、たとえば本に掲載されている写真を利用したいときに、利用者は著作権者から許諾を得る必要がありますが、政府が著作物と著作権者、利用条件を登録したデータベースを整備することで、著作権者を探索しやすくする計画を決めたそうです。もっとも、著作権者不明や連絡が取れない場合もあります。現在は文化庁長官から裁定を受け著作物を使える裁定制度がありますが、いたって手続きの負担が重いので、一元的な窓口に申請して使用料相当額の支払いを済ませれば利用できる、新しい権利処理の仕組みを作ることも併せて計画するとのことです。音楽業界の著作権管理団体は著名ですが、出版物の場合、その出版社がすでに存在しなかったり、著作者が個人であったりすると、なかなか著作権者の探索はやっかいです。法律の基本書などは、著者が故人となっても重版されることがあり、印税の支払先の探索に出版社自身が苦労している例はあります。有斐閣のホームページには、著作権の相続人向けの告知コーナーがあります。価値ある著作物を遺して逝ったところの相続人であれば、こうした一元的窓口ができると、有益かもしれません。
またホームページに載せた写真と被写体人物の権利が問題になったニュースがありました。ある政治家が世界各地の女性を撮影して被写体の承諾を得ず勝手にホームページに掲載していたそうです。しかもその掲載コーナーのタイトルがずいぶん品がないものだったといいます。私も過去に海外で撮影した写真を載せていますが、個人が特定される肖像には気を付けています。
写真は、台湾の基隆(2018年7月撮影)。