ブランド価値と使用価値

斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』は、たいへん新しい視座をもたらす刺激的な本でした。氏は、無限の経済成長を断念し、万人の繁栄と持続的可能性に重きを置くという自己抑制こそが、「自由の国」を拡張し、脱成長コミュニズムという未来を作り出すと主張しています。脱成長コミュニズムが世界を救うというわけです。そして、脱成長コミュニズムの柱として以下の4つを提唱しています。①使用価値経済への転換②労働時間の短縮③画一的な分業の廃止④生産過程の民主化がそうです。具体的にどういうことか、使用価値についていえば、高価格のSUVも低価格の軽自動車も人の移動手段として見るならば、大差がありません。違いはブランド価値であってそれが商品価格の違いにも大きく反映されます。消費者が考え方を変えれば、社会はかなり意味のない競争のために働いていることが多いことに気付きそうです。
同書では、エネルギーが無償の水力から移動が可能な石炭・石油といった化石資本に変わったことが、立場の弱い労働者を生み出したとの記述がありました。この部分で、水俣病の原因企業のチッソが九州各地の大型河川に水力発電設備を作り水俣まで送電してそれで化学肥料などを生産していたことを思い出しました。イギリスとは異なる日本型の資本主義形成の姿がそこにはあったと思います。