教育の無償化という国際人権問題

何度も繰り返しますが、『国際人権入門』では、さまざまなことを学びました。条約機関の審査において協議資格をもつ国際NGOが活躍していることもその一つでした。条約機関へ寄せられる締約国の政府による報告というのはどうしても甘口になります。その報告内容が実態を正しくとらえていないことには、条約機関も適正な審査が行えません。ここに国際NGOの出番があるわけです。条約機関からの勧告を締約国は尊重しなければなりません。たとえば、かつての日本政府は、国内には少数民族がいないとしていたのですが、今ではアイヌの人々や朝鮮半島にルーツをもつ人々の存在を認め、少数民族の存在を認めています。
さて、昨日は連続在任日数の最長記録を立てた日本の首相が辞任を表明しましたが、自らの実績の中に「不完全な」高等教育の無償化を上げていました。実は、教育の無償化も国際人権問題となっています。日本では貸与型の給付金も「奨学金」と称されていますが、金融機関が扱う同様のサービスが「学資ローン」あるいは「教育ローン」と称しているとおり、国際基準では「奨学金」には当たらず、あくまでも「借金」です。本当の「奨学金」である2018年度の給付制奨学金(毎年2万人)の予算は105億円とされていますが、これは米国から買わされる(?)最新鋭戦闘機F35Aの1機約116億円に満たない額です(空母に離着できるF35Bはさらに高額)。
国際人権規約の一つである社会権規約は13条で、「教育についてのすべての者の権利」を認め、教育が人格の完成と人格の尊厳についての意識の発達を指向するものだということに締約国は同意するとしています(1項)。そして、2項では、この権利の完全な実現を達成するため締約国は次のことを認める、として、初等教育については義務的かつすべての者に無償とすること((a))、中等教育(中学・高校)については「すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、一般的に利用可能であり、かつ、すべての者に対して機会が与えられるものにすること」((b))、高等教育については「すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること」((c))と規定しています。子どもの権利条約の28条でもほぼ同様の規定が置かれていますが、社会権規約2条1項は、「締約国は、立法措置などのすべての適当な方法によりこの規約で認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため、自国における利用可能な資源(左記は著者訳。日本公定訳は「手段」)を最大限に用いることにより(中略)措置を取る」としています。
ところが、日本で2020年4月から実施されている「高等教育無償化」は、世帯の年収で支援率が異なり、大学院生は対象とはしていません。低水準で不完全な導入に留まっています。
こうして見ると、国内向けには「施し」として「高等教育無償化」が実施されていますが、国際的には完全実施しなければならない義務があることを国民の目から隠しているといってもいいかもしれません。教育を受ける権利が家庭の所得の違いによる自己責任とされるのは間違っています。