勉強になったこと

まだ途中ですが、北野隆一著『朝日新聞の慰安婦報道と裁判』(朝日選書、1900円+税、2020年)を読んでいます。
まず朝日新聞が2014年8月5-6日に出した、戦時中の済州島で女性を慰安婦にするために強制連行をしたとする故・吉田清治証言を虚偽と判断し、過去の同証言を引用した記事を取り消すとともになぜそうなったかを検証した記事があります。検証記事には挺身隊と慰安婦の用語の混同についても触れてあります。本書では著者自身が社内の検証チームに所属したこともあり、社内での検証過程が克明に記録されています。検証記事の中身については、きわめて真っ当な内容だと思います。吉田証言の舞台となった済州島へ赴いての取材も行われています。
ところが、この検証記事をネタに翌2015年1-2月に朝日新聞を敵視する3グループによる集団訴訟が同社に対して起こされます。私も2014年の検証記事についてはそれなりに覚えがありましたが、3つの裁判の内容については、あまり承知はしていませんでした。一つは、判決時期が2016年の熊本地震以降でもあり、正直なところ身近な関心事ではありませんでした。
そこで、原告の訴えの内容や裁判の経過、判決の詳細を、今回、まとめて知ることができました。実際、この裁判は3つとも原告が敗けましたが、敗けるべくして敗けた、荒唐無稽の訴訟でした。本来、民事訴訟において被告の不法行為によって被った原告の損害を裁判官に認めてもらうために、原告は因果関係を立証していくものなのですが、これら3つの訴訟は進め方がまるでなっていませんでした。「因」と「果」を言い立てるだけで、「関係」についての立証はまったくできていませんでした。よくそうした裁判の原告代理人を務める弁護士や原告として名前をさらす蛮勇がある学者がいたものだと不思議に感じました。著者は原告らの集会での発言も取材して、その内容も本書で知ることができますが、どうも原告らの願望は朝日新聞を潰すことにあり、裁判はそのための原告らの売名行動に過ぎなかったのではないかと思われます。目的と手段が合っていないので賢しさが感じられませんでしたし、朝日新聞にとっては迷惑この上ない出来事だったと思います。
私も朝日新聞を長らく読んでいますが、そんなに影響力のあるメディアだとは感じていません。地方だと、新聞報道ネタについて地域住民が話題にするとなると、ネタ元のほとんどは地方紙になります。ましてや海外で朝日新聞なる日本の新聞の報道に接する人は、ごくわずかでしょう。朝日新聞の報道がなくても従軍慰安婦の存在は史実として消えません。それで名誉が棄損されたとか、同紙が憎いと考える人の中では、あまたあるメディアの中でそこまで国内外での影響が大きいと言い切るその思い込みの激しさに驚きました。
もしも原告グループが言うように日本の裁判制度が信用ならないのなら、ぜひ日本政府に働きかけてもらいたいことがあるので、ここに提案します。それは、日本が加盟している国際人権条約で選択的議定書の批准を進めてもらい、条約機関への個人通報制度の導入と国内人権機関の設置を働きかけてもらいたいと思います。