国内人権機関の実現を

国際人権法の世界で日本政府が遅れをとっている一例として国内人権機関といえる組織がないことがあります。国内人権機関とは、公権力から独立した権限を有する人権救済機関です。1993年の国連総会で決議されたパリ原則(国内人権機関の地位に関する原則)の中でこの機関の設立が求められました。人権救済に対する行動が地域的に遅れているアジアにおいても大韓民国国家人権委員会(NHRCK)やインド国内人権委員会(NHRC)がすでにあり、国会等に対し、多くの勧告や意見表明がなされていたり、政府機関等に対し、人権意識向上に向けた活動とトレーニングを行っていたりします。
たとえば、いじめ防止対策推進法に基づき、いじめの重大事態の調査を学校や教育委員会の下に設置された組織が行うことがあります。第三者機関と称されますが、調査主体の選任権を調査される側が持つことになります。また、調査ごとに設置される組織では、調査の手法、技術、早さなどのレベル向上は見込めません。前述の機関もないよりはあった方がましですが、やはり常設の子どものための第三者機関による調査が期待されます。日本の地方自治体の中にも、子どもの権利条約の批准を受け、子どもの権利救済を目的とした権利救済機関を設置している自治体がわずかながらありますが、日本全国くまなくこうした機関が必要です。子どもの権利条約の条約機関、子どもの権利委員会は、日本に対し、子どもによる苦情を子どもに優しい方法で受理し、調査しかつこれに対応することができる、子どもの権利を監視するための具体的機構を含んだ、人権を監視するための独立した機構を迅速に設置するための措置とパリ原則の全面的遵守が確保されるよう、資金、任務及び免責との関連も含めて監視機関の独立を確保されるための措置を求めているところです。
在日外国人の人権救済についても日本の取り組みは、遅れています。人種差別撤廃条約の条約機関、人種差別撤廃委員会からは「技能実習法」に基づく適切な規制及び政府による監視を勧告され、アメリカからは技能実習法の執行及び実習生の保護が不十分であること、二国間取決めに抜け穴があること等の指摘がなされ、強制労働が発生し、中には性的搾取目的の人身取引の被害者になる者もいるとされており、国際的にその問題点が指摘されています。これでは、技能実習生は、じっと耐えるか逃げ出すかという状況に追い込まれるしかないのがうなずけます。
司法を通じた人権救済を図ることも確かにできるかもしれませんが、その人権侵害を受けた被害者に、時間的にも費用の面でも多大な負担を背負わせます。これでは、人権救済を求めること自体について抑制的になってしまいます。
私も委員として末端に連なる法務省による人権擁護行政については、法務省自身が「人権救済等に必要な専門性や経験を有する人権擁護委員が必ずしも十分に確保されていないため、活動の実効性にも限界がある。」と述べるとおり、パリ原則が求める国内人権機関としての要請から大きくかけ離れています。法務省には「人権委員会設置法案」の実現に向けて前進してもらいたいと思います。
人権外交を標榜する日本は、アジアでの人権の確保に向けて範を示す立場にあります。国際人権条約の活用・促進を積極的に進めることが、アジアの人権状況の改善に繋がるものでもあり、日本にはその役割が期待されています。しかし、国際人権条約に加盟しつつ、条約上の権利を実現するための個人通報制度を導入しなかったり、国内人権機関を設置しなかったりするのであれば、国際人権条約に加盟した意味がありませんし、国民への背信行為でしかありません。