人権保障をめぐるノート

放送大学テキストの『法学入門』の第14章「国内法による人権保障と国際法による人権保障」の記述内容から人権保障について考えるノートを作成してみます。ふだん読書をするときに、大半は流し読んでしまうのですが、読む時期によっては、自分の仕事や関心ある出来事に関係するテーマに出会うと、ノート代わりにブログに投稿するようにしています。ブログに投稿しておけば、後でそれを読み返すときも容易に検索できるので便利です。自分の忘れやすい頭脳を補完してくれる外付けハードディスクのようなものです。同じテーマでも新たな知見を加えることによってバージョンアップすることもできます。それと、よくあるのがノートを付けると、元データの間違いをよく発見できます。このテキストでもいくつかの間違いを発見しました。最近のブログで取り上げた山室信一氏の著書でもよく西暦表記が間違っている記述がありました。このへんは、編集者の油断だと思います。しかし、『法学入門』は共著なので、もっと共著者同士のチェックが働いても良さそうなものですが、残念ではあります。
さて、まずは人権という概念の起源です。これは17世紀から18世紀にかけての近代ヨーロッパの思想家たちによってもたらされました。しかもそれは自然権としての人権です。次いで19世紀末から20世紀初頭にかけて、国家に対して特定の政策目標達成のための施策の遂行を求める権利、つまり社会権としての人権の概念が出てきました。
ただ、人権保障について国際法(条約と慣習国際法)によって主張される歴史の始まりは、第二次世界大戦後になってからです。国連憲章(1945年)、世界人権宣言(1948年)、国際人権規約(1966年)など。しかも、人権概念が世界共通であることに対する疑念は、絶えずありました。1993年に国連主催で開かれた世界人権会議においては、最終的に「ウィーン宣言および行動計画」が採択されましたが、当時、中国やシリア、イラン、マレーシアなどは「アジア的価値ないしは伝統的価値」を主張して人権概念の普遍性に対する批判を示しました。欧州や米州には地域的人権条約もありますが、アジアでは2012年にアセアン人権宣言が採択されたのに留まり、条約ではなく法的拘束力のない宣言に過ぎないため、規定内容が国際的基準に達していないとの見方もあります。条約となると、国家報告制度(締結国→条約機関)が課せられますし、国家通報制度(条約違反した締約国情報→条約機関)や個人通報制度が規定されます。
国際人権規約は、169か国締約の自由権規約(非締約国例:サウジアラビア、シンガポール、中国)と、164か国締約の社会権規約(非締約国例:マレーシア、キューバ、米国)の2つからなります。人種差別撤廃条約の締約国は178か国ですが、死刑廃止議定書の締約国は84か国に留まっています。締約国の顔ぶれでその国家のスタンスがうかがい知れます。日本が女子差別撤廃条約の締約国となったのは1985年でした。そのための国内法整備として父系血統主義から父母両系血統主義へ変更する国籍法改正が1984年になされましたし、男女雇用機会均等法が1985年に制定されました。
そもそも人権について考え始められた時代の「人」の範囲が今と同じであったかというと、そうではありませんでした。18世紀における「人」とは、あくまでも家父長であり男性だけでした。女性や子ども、障害者、性や民族・宗教などのさまざまなマイノリティーが「人」のなかに含まれるようになった歴史も意外と新しいのが事実です。
人権保障については、歴史的な違いと共に地域的な違いがあり、国内法と国際法との関係についても留意する必要があります。ひとつは、各国家がそれぞれの国内法に基づいて人権保障を行い、どのような人権保障をするかはその国家の決定事項、つまり「国内管轄事項」という考え方があります。もう一つの国際法の条約については批准するかどうかもそれぞれの国家の判断になりますが、慣習国際法となっている人権保障規定についてはすべての国家が守らなくてなりませんし、ジェノサイドや奴隷取引の禁止はいかなる逸脱も許されない強行規範となっています。したがって、「国内管轄事項」だけを主張できないのが、国際社会の常識になっています。
2006年に国連は総会の下部機関として国連人権理事会(前身は経済社会理事会の下部組織であった人権委員会)を創設しました。その下に普遍的定期審査(UPR)という制度が設けられ、国連の全加盟国について、それぞれの国内での人権状況を4年ごとに審査されることになっています。
こうして見ると人権保障をめぐり他国に対して発言する際は、国際法について理解しなければなりませんし、他国に対して発言すれば、自ずと自国の人権保障の状況についても振り返ってみなければなりません。障害者差別解消法、有期雇用労働者特別措置法、サイバーセキュリティ基本法、特定秘密保護法、リベンジポルノ防止法、いじめ防止対策推進法、ヘイトスピーチ対策法など、さまざまな国内法が近年整備されましたが、その内容についてもっと理解する必要を感じます。