『砕かれた神 ある復員兵の手記』(角川新書、1200円+税、2026年)の著者が渡辺清氏(1925-1981年)と知り、今夏手に取りました。同氏の著作との出会いは実に半世紀ぶりとなります。中学2年のときに中学校の図書室から借りて読んだ『海の城 海軍少年兵の手記』に、たいへん衝撃を受けた覚えがあります。『海の城』の舞台は、少年兵であった渡辺氏が実際に乗艦していた日本海軍の巨大戦艦「武蔵」。艦内での精神混入棒を用いたしごきにより、同年兵が亡くなる事件も描かれていました。敵軍との交戦だけでなく味方の上官の手によっても命を失うことがある軍隊という組織の歪さを知ることができました。著者自身の戦中の記憶が『海の城』であり、敗戦直後の20歳前後の記憶が『砕かれた神』となっています。戦後、著者の心の中で砕け散ったものは現人神であった天皇だけでなく、戦中までは沈黙していた学者であったり、権力に阿った言動を続けていた学校教師や地域の名士だったりが含まれます。少年兵たちは復員後、戦後にやすやすと手のひらを返した醜い大人の姿を知るのです。巻末の小熊英二氏による解説がいいです。