『日露戦争』読書メモ

千葉功著『日露戦争』(吉川弘文館、3000円+税、2026年)を手に取ったきっかけは、4月4日の朝日新聞読書面に載っていた吉田裕氏による書評でした。同書評の言葉を借りれば、日露戦争の全体像を解明した意欲作で、政治史・外交史の分野での通説批判が鮮やかとありました。本書の目配りは多岐にわたり、アイヌや沖縄出身を含む兵士の立ち位置から浮き彫りにした戦場の記憶、教育や文化を通じた戦争観の変遷などに触れてあります。それこそ大半の国民が「坂の上の雲」のイメージに留まっている歴史観を洗い流す、研究者の視点の広がりを存分に感じる著書でした。本書は吉川弘文館の「日本歴史叢書(新装版)」シリーズの一角ですが、巻末に当時の日本歴史学会の代表者・児玉幸多氏による同シリーズ刊行時の辞が載っています。著者の千葉氏は学習院大学教授なのですが、児玉氏はかつて学習院大学の学長を務めておられたのを思い出しました。
それはさておき、「日露戦争は日清戦争と違って、日本が西洋の帝国主義列強と本格的に戦った最初の事例」(p.4)です。だからこそ、「日本が戦争を遂行するにあたり、どのような軍事・政治・経済的施策が取られたのか」「どのような戦時国民動員が行われて、それが社会にどのような影響を与えたのか」「日本の帝国化ないし一種の大規模な異文化接触がどのような現象として表れたのか」(p.5)を知る意味は大きいと思います。
戦争のリアルさという点では、かなり無謀な戦争であったということが改めて理解できた思いがしました。とりわけ陸軍の戦死者・戦傷病者といった損耗率は高いものがありましたし、戦費の調達のため国内経済にも多大な負担を与えました。一方で、メディアの戦意高揚ぶりや兵士の日記・手紙に見られる戦地での朝鮮人や中国人に対する蔑視記述など、現代にも共通して懸念される武力重視の対外強硬思想や外国人差別感情といった醜悪な国民統合の土壌を見る思いがしました。
81年前の敗戦だけでなく120年前の戦争の実相からも学ぶべき点が多々あるのを感じます。