『日本社会と外国人』読書メモ

5月19日の朝日新聞オピニオン面に「最高裁判断を国際水準に」と題する対談記事が載っていて、その中で最高裁の調査官や事務総長などを経て最高裁判事を務めた経験のある泉徳治さんが、「裁判官は(国際)人権条約についてきちんとした教育を受けておらず、民事や刑事事件で目にすることはほとんどありません。条約は「国と国の約束」で、法的効果を国民一人ひとりに与えるものではないという誤った観念が強いのだと思います。」と率直に語っていました。裁判官ですら、そうですから、出入国管理政策を担う行政庁の水準も推して知るべきで、外国人をその労働力で役に立つ存在かどうかでしか判断せず、人権の観点からその扱いぶりはどうなのか疑問です。
その思いを、朴沙羅著の『日本社会と外国人 入管政策が照らす80年』(中公新書、1200円+税、2026年)でさらに強く感じました。一例を挙げると、第二次世界大戦以前から日本に居住し、サンフランシスコ平和条約の発効によって日本国籍を離脱した旧植民地出身者およびその子孫が保持する特別永住者という在留資格がありますが、これについて「欧州各国では、居住国生まれの三世以降が外国籍のまま参政権を所持しないことを人権侵害だとみなし、重国籍や地方参政権付与などによって問題を解消する傾向にある。それに比して、かりに、日本では民族浄化を目的とした極右排外主義団体のデマや誣告に乗せられる形で、滞在資格を「特権」として議論しようとしているとすれば、民主主義を標榜する法治国家としてあまりにも情けないことではないだろうか」(p.180 出典は金明秀の2014年の論考)という指摘もあります。日本は1995年に人種差別撤廃条約へ加入しましたが、国内に人種差別を禁じる法律はいまだありません。今年で成立して10周年(2016年5月24日)になるヘイトスピーチ解消法も、「人種差別そのものを罰したり禁じたりしたものではなく、差別的な言動を防ぐための教育や啓発に重点を置くもの」(p.184)となっています。