『定本 力と交換様式』読書メモ

今年3月に岩波現代文庫から出た、柄谷行人著『定本 力と交換様式』は、世界史の構造を規定する物神的な謎の力を著者独自の交換様式論で展開する骨太の著作です。その理論自体が鮮やかで魅了されると同時に、そこへ考えが到達した過程を追えるのがそれ以上に刺激的でした。本書では古今東西の先哲の思想を読み漁りかつ読み解いた軌跡が存分に示されています。それら先哲の思想には読み手である私自身も触れたものもありましたが、そうでないものも多くあります。著者の華麗な読み解きにより、すでに触れた思想に対する新しい解釈や世間一般的に未知の思想への目配りがなされ、未来への知を獲得する醍醐味を感じました。
私の読書記録で確認すると、2010年にやはり岩波書店から刊行された同氏の著書『世界史の構造』を確かに読んではいるのですが、特に読書メモを残していないところを見ると、なんかモヤモヤした読後感に終わったからなのだろうと思います。それは、著者の交換様式論にもまだモヤモヤさがあったからだったに違いないと、今回思いました。
人類は世界宗教を発明し、あの世に国家も資本もない平等な人間社会を求めてきた一方、現世にポスト資本主義社会の実現を求める思想の科学を生んできた歴史があるんだなあと思いました。そこでいくと、宗教と科学が目指すものは案外近しいのかもとこれまた面白く感じました。
さて、本書を読みながらもう一つ感じたのは、当然のことながらAIにはけっして生成できない知があるということでした。AIが生成の源にするものには本書で取り上げられた先哲の著作も含まれるかもしれませんが、AIには字面を読むことしかできません。字面を再構成してなにがしかの文章要約を論理的に発出することはできても、先哲の著作が生まれた時代背景や人的交流の影響、それらによる思考の変遷までも読み解くのは難しいのではないかと思います。AIは間違いとか失敗を犯さず瞬時に正答を出すことには長けていますが、人間のような意識や感情、つまり楽しさも苦しみもないわけなので、ズレや独自性を創造するのは不得意なんではなかろうかと思います。
というわけで、本書で展開される理論についてのメモはほとんど含めないヘンテコな投稿になりましたが、この一冊で先哲の真髄に広く接することができることだけは請け合います。1800円+税というのは、ずいぶんお得です。
https://www.iwanami.co.jp/book/b10159289.html