作家にして元外務省主任分析官の佐藤優氏監修の『これからの世界の紛争』(新星出版社、1500円+税、2026年)をつい先日買って読んでみました。購入のきっかけは、同氏が月1で登壇する動画で紹介していたからです。同氏の発言はその動画以外にも朝日新聞電子版でのコメントでも日頃接します。もっとも最初に氏の存在を知ったのは鈴木宗男事件に連座する形で逮捕される以前の時期に、雑誌『世界』(岩波書店)の「世界論壇月評」を寄稿されていた頃からなので相当長いですが…。それはともかく、氏の現在発する意見のすべてを首肯するものではないですが、国際関係に対する俯瞰力の広さや歴史や思想に対する造詣の深さには敬服するところがあります。それでいてこれまで同氏の著作は一度も手にしたことがありませんでした。言うなればこれまでほとんど無償に近い形でしか氏の言説に接してこなかった不義理に対するほんの僅かなお返しの意を込めて入手してみた次第です。
さて、本著についてですが、「サクッとわかるビジネス教養」のシリーズ本と謳っているだけあって、図解資料が多く、1時間ほどで読み終えるというか眺め終わることができました。取り上げられている紛争についてはすべて承知しているものばかりでしたので、特に新鮮な情報はありませんでした。しかし、特定の紛争のニュースに接したときに関係国・機関・人物や経緯の正しい情報を即座に確認したいときは、辞書的機能があって便利な代物(まるで教科書副読本みたいな!)ではあるかなと思いました。欲を言えば、アフリカ地域における紛争の取り上げ方が少ない印象を受けました。もっと広範な紛争情報について手軽に知りたければ、『分離独立と国家創設 係争国家と失敗国家の生態』の著者・ジェイムズ・カー=リンゼイ氏(英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス欧州研究所研究員)のビデオレターはたいへん有益です。興味を持たれた方は、この動画チャンネルへアクセスしてみるのもいいと思います。
https://www.youtube.com/c/JamesKerLindsay/Join
佐藤監修本の内容について話を戻すと、途中に挟まれているコラムの方が、同氏の識見の本領発揮という思いがしました。たとえば、p.112では1932年の、フロイトとアインシュタインの往復書簡「ひとはなぜ戦争をするのか?」を取り上げています。ここでフロイトは「(戦争を防ぐために)優れた指導層をつくるための努力をこれまで以上に重ねていかなければならないのです」と書いています。紛争の現状把握だけでなく、そうした人類がこれまで積み上げてきた知の蓄積についても目を向けてみることが必要なのだと思います。
(p.117に掲載のグラフの記載で誤記を1か所見つけ出版社に知らせたところ、翌日返信をいただきました。丁寧な対応に感謝します。)