『イスラームが動かした中国史』読書メモ

国際関係や外国人問題について論じられるときに、その対象について狭隘な先入観や断片的な知識しか持ち合わせていない人物の発言は、まずそれを疑ってみるに限ると考えます。その世界的な代表格が現在の米大統領ですし、わが国の現在の首相もまともな学習経験があるようには感じません。その手の人物というのは、ただただ大きな権力がある地位に就いてみたいだけで、行動が場当たり的で、先行きを見誤ることぐらいしか能がないのだと思います。ですが、皮肉なことにそういう手合いに共感する国民が多いからこそ、彼らに権力を与え振り回されているのだと思います。
さて、海野典子著の『イスラームが動かした中国史』(中公新書、1300円+税、2025年)は、隣国中国のムスリムの人々の歴史を描いた著作です。現代中国の国民において回族とされる人々はムスリムの子孫とされますが、彼らの風貌は漢族と変わりないですし、日常会話も漢語ですし、必ずしもすべて回教徒ではありません。もともと漢族だった人が民族登録を回族としていることもあります。「馬」姓を名乗る回族は比較的多いとされますが、なんせ1400年も激動する中国社会を生き抜いてきたコミュニティーです。その人口は1000万人以上ですから中国国内では少数民族と言っても規模が違います。中国には、他にウイグル族などのイスラーム系民族がいて、それらを含めると、人口は2500万人を越えます。本書を読むと、とにかく中国国民全体や各民族個々をステレオタイプ化して理解するのは見当外れも甚だしいことに気づかされます。
歴史を振り返ると、さまざまな文化が交流融合したり、人材登用され社会が発展したりした側面と、少数異質のコミュニティーが不当な弾圧を受けて社会が混乱疲弊した側面とがあり、実に複雑です。それと、宗派は異なっても世界には多くのムスリムがいて、そのことによる国際関係、絆の強さを無視してはならないと改めて感じました。
最後に1点だけ指摘すると、本書は日本の研究者だからこそ書けた、日本だからこそ出版できた面もあると感じました。一つひとつの記述が政府の考えと異なると潰されるようでは国の発展はありません。一方、そういう政府の国であったならどうやって生き抜いていくべきかの知恵も本書は示しています。今度都内に出たら回族出身者が経営するハラール料理店を訪ねてみたいと思います。