イスラム地域研究の専門家である宮田律氏によるの最新著『50のストーリーでつながりがわかるイスラムの世界史』(中央公論新社、1950円+税、2025年)は、ふだん馴染みがないイスラム世界の歴史を理解するのに適した教科書としてお勧めではないかと思います。馴染みが薄いとはいえ、日本におけるイスラムに関する報道は、テロや戦争に関係するものがほとんどなので、イスラムに対するイメージが、何かしら物騒な得体のしれない怖さを秘めたものになっているのが、実情だと思います。しかし、本書を読むとイスラムは本来、テロや暴力を否定し、子どもや女性、高齢者などに対する保護を強調する宗教ですし、貧困者を救済するために喜捨の義務があり平等を求めます。信仰を強制せず信仰の自由を保障することから、歴史的に見ると、ユダヤ教徒やキリスト教徒との共存ができた時代がはるかに長かったことを知ることができます。
学問の発展についてもヨーロッパ・キリスト教世界で花開いたイメージが私たちには強くあると思いますが、これも歴史的に振り返ると、その基礎がイスラムの世界発ということが、医学や数学、天文学さまざまな分野で多くあります。算用数字をアラビア数字と称することを思い出してもらうと、納得されると思います。現在のアフガニスタンのタリバンからは想像できませんが、音楽・楽器もその源がけっこうイスラムの世界にはあります。
さらには、食文化においてもイスラム発祥のものが多いと知り、これがもっとも驚きでした。私がウィーンで飲んだコーヒーも、ローマで食べたパスタ、マドリードで食べたパエリアなど、いずれもイスラム世界からヨーロッパへもたらされたものです。
本書は、イスラエルとパレスチナとの関係など、現在の不幸な側面についての解説にもページを割いていますが、平和共存は絶対に不可能なのかを歴史から学ぶべきだと思います。現在の日本国内においてもクルド人に対する不当な差別も無知や誤情報思い込みゆえに起こっていることで、みっともなく思います。