つかの間の都会滞在中、当日思い立って訪ねられる場所が多いのは愉快です。日に軽く10km超は歩いてしまいます。それと、目白界隈など高低差がある街並みもあるので、いい運動になります。車を運転しないことで環境的にも自分の健康にも適した過ごし方ができます。
以下はアート鑑賞と街歩きの覚え書きです。なお、訪問日順はランダムです。
■永青文庫 (最寄りバス停:目白台3丁目)
目白駅前からだとバスを利用し、目白台3丁目で下車するのがアクセスの常道ですが、今回は駅から徒歩で向かってみました。目白の地名の由来となる目白不動が面する「くらやみ坂」を下り、途中昔ながらの蕎麦屋「花月庵」を見つけ、「鴨南蛮そば」(980円)でランチを済ませました。他の来店客は学生風の常連っぽい感じでしたし、味や店内が時代に流されないたたずまいで、懐かしい気分も味わうことができました。それから「細川庭園」へ向かう途中に、長崎県諫早市の東京事務所があるのに気づきました。思わぬところで来季J1に近いクラブののぼり旗を見かけました。
永青文庫では、菱田春草の「黒き猫」がクラファンで修理を終えたのを記念した「近代日本画の粋 あの猫が帰って来る」展が開かれていましたので、じっくり絵画と対面してきました。入館当日はコレクターの細川護立生誕142年の日にあたり、特別に「黒き猫」のポストカードのプレゼントがあり、幸運でした。
鑑賞後は早稲田駅へ向かうため、神田川沿道へ向かって「胸突坂」を下りました。作家の村上春樹さんは、早稲田大学在学中にこの坂の上にある「和敬塾」に在寮していましたから、大学への行き帰りに利用していたかもしれません。
https://www.eiseibunko.com/index.html
■霞会館記念学習院ミュージアム (最寄り駅:目白)
永青文庫に立ち寄る前に「貞明皇后と華族」の特別展を開催中なので訪ねてみました。大正天皇が使っていた食器が展示されていて、それが意外と質素な有田焼だったのが強く印象に残りました。有田陶器市で似たようなのを探してみると楽しいかもしれません。
https://www.gakushuin.ac.jp/univ/ua/exhibition/
■国立新美術館 (最寄り駅:乃木坂)
国立新美術館が開館したのは2007年、同年に近くにサントリー美術館が移転開館してからほどなくして両方訪ねたのが前回でしたから、ずいぶんと年月を空けての2回目の入館でした。今回見てきたのは、「時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010」という企画展です。同館では同時期に別会場で「ブルガリ カレイドス 色彩・文化・技巧」の企画展も開催中でしたが、石ころには興味がないのでパスしました。ただ、若いカップルの来場者は断然「ブルガリ」に人気があるようでした。買うのはハードルが高いですが、眺めるだけなら安いものです。
さて、「時代のプリズム」展ですが、私のサラリーマン時代がほとんど含まれる時期の美術表現ということで、その時代の社会の雰囲気の変化を思い出しながら観覧しました。会場に入ってすぐの「プロローグ」コーナーの写真パネル展示が、共に1984年開催の「ヨーゼフ・ボイス展」(西武美術館)と「ナムジュン・パイク展」(東京都美術館)でした。1984年だと、まだ学生時代だったのですが、どちらも当時観覧したことがあったので、いきなり感慨深いものがありました。80年代初頭というと、ポーランド戒厳令とワレサの「連帯」運動、第2回国連軍縮特別総会と反核機運の高まりなど、世界が動く予感がありました。それが1989年のベルリンの壁による冷戦体制の終結、1991年のソ連解体という解放感からさまざまな批評精神を持った表現が登場してきたように思います。作品の国際化が進み、この頃までは経済も好調で、若い世代の海外旅行も盛んな陽が差した時代だったのではないでしょうか。ナムジュン・パイクの作品をソウル近郊やニューヨークの美術館で見た経験があります。
奈良美智さんのおなじみの少女の絵画のほか、2008年北京五輪に対抗した架空の「西京」オリンピックを形にした作品、野菜を武器に見立てて各地の女性に持たせた写真が、私的には最強でしたので、会場風景をアップします。
https://www.nact.jp/
■SOMPO美術館 (最寄り駅:新宿)
以前は安田火災海上本社ビル(現:損保ジャパン本社ビル)の42階に東郷青児美術館としてあったのが、同ビル脇に別棟を新築して2020年、館名も新たに移転オープンしてから初めて訪ねました。開催されていたのは、「モーリス・ユトリロ展」。モーリス・ユトリロ(1883–1955)は、20世紀前半のフランス美術界を代表する風景画家です。幼少期からのアルコール依存症で、その療養の一環として絵を描き始めたという特異な経歴をもっています。第一次世界大戦の際に兵士として志願したのですが、医学的理由で兵役に就くことができず、失意でさらに酒浸りになります。ですが、兵役を免れたおかげで71歳まで数々の作品を残したのです。若いときの「白の時代」、晩年の「色彩の時代」と、同一画家の作風の違いを感じられるので、人間の奥深さ・振り幅の広さに魅せられます。
https://www.sompo-museum.org/