人を牛馬扱いするのが今もいるんだ

自民党の新総裁に選出された方が、選出直後のあいさつで「馬車馬のように働いていただく」「私自身もワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てる。働いて、働いて、働いて、働いて、働いていく」と述べていました。目の前の仲間内の国会議員に向けた発言でしたが、報道で伝わるわけですから霞が関の官僚はもちろんのこと、広く国民がこの言葉をどう受け止めるか思いを寄せる器量はないのだなと思いました。
総裁の座を渡すことになった方もさすがに気になったみたいで、「あそこまではっきり『ワーク・ライフ・バランスをやめた』と言われると大丈夫かという気がしないではない」と指摘していましたが、水俣病を引き起こしたチッソの創業者の野口遵が「労働者は牛馬と思え」と言っていた有名な逸話を私はつい連想しました。
野口遵は、1944年1月15日に死没していますが、公害病を引き起した企業体質はその組織のトップの考えに起因していると思います。水俣病研究会著『〈増補・新装版〉水俣病にたいする企業の責任−チッソの不法行為−』(石風社、2025年)によれば、チッソ水俣工場における労働災害は非常に多く、最多を記録した1951年ではほぼ2人に1人が被災するほど社内の安全性を無視して操業していたといいます。生産第一、利益第一で稼働させて安全教育も蔑ろにされていたことが同書では明らかにされています。社員を危険にさらしてもなんとも思わない幹部で占められていた企業だったからこそ、自社工場から海へ排水するメチル水銀が水俣病の原因と社内で気づいてからも秘密を通して危険を回避する対策をとりませんでした。漁民に限らず魚介類を食べる生活をした社員とその家族も水俣病の被害を受けました。社員を守れない企業は結果として企業自身へも不利益をもたらすことになったことは歴史が示しているところです。
人を牛馬扱いするのを厭わないトップが今もいるのが驚きでもあり、そういう組織が向かう先は…という気がします。