今号では、以下の2本が注目でした。
短時間正社員──労働力不足時代の働き方アップデート
田中洋子(筑波大学名誉教授)
…働く時間を選べる正社員という選択肢があれば、働く人にとっても雇用者にとってもメリットが大きいと感じます。日本よりも人口が少ないにもかかわらずGDPでは上位のドイツには、非正規パートは存在せず、短時間正社員、時短正社員という働き方が普及しています。フルタイムもパートタイムも全員が同じ一つの給与表にしたがって実際に働いた時間の割合で計算して支払われるそうです。そのためドイツでは自分の働き方をパーセントで話すことが一般的であり、一つの管理職ポストを2人でシェアリングしながらキャリア形成することも普通だといいます。論考では、日本でも導入している例としてイケア・ジャパンと広島電鉄を紹介していました。優秀な人材に定着してほしいと願う組織では取り入れてみると採用面でも効果的だと思いました。
「天皇陵」と民主主義──世界遺産登録と大山古墳立入り観察から
高木博志(京都大学名誉教授)
…2019年に百舌鳥・古市古墳群が世界遺産に登録された際に、大山古墳は「仁徳天皇陵古墳」、誉田御廟山古墳は「応神天皇陵古墳」の名称で構成遺産となったそうです。しかしこれは選ばれた一部の学者によって、学会や市民に諮ることもなく決められたがために、国際社会にのみならず、国内の市民や教育現場にも、記紀系譜や神話世界を鵜呑みにさせる影響をもたらしたと筆者は批判しています。陵墓の墳丘の上まで登ることができる宮内庁の2023年度の陵墓管理委員会委員としては、敬称略で河上邦彦、石上英一、和田晴吾、佐藤信、本中眞、堺秀弥、田村毅、福永伸哉といった学者が名を連ねています。これらの研究者は、「皇室の先祖の墓」と見なした上で、立ち入りが可能なのですが、中にはかつて陵墓公開運動に携わった学者も含まれていることから問題だと筆者は感じているようでした。ちょうど今月13日に熊本県立図書館において佐藤信氏の講演を聴く機会があるのですが、本稿をどう受け止めているかも聞いてみたい気もします。ちなみに21世紀の歴史学では、大山古墳や誉田御廟山古墳が築造された5世紀には、いまだ「天皇号」は成立せず、おそらく倭の五王の墓のどれかに過ぎず、それが7世紀後半に始まる律令制下の天皇や、まして現在の天皇家と直結するわけでもない、というのが寄稿者の見解です。