住民訴訟と損害賠償責任の一部免責

2025年7月26日の熊本日日新聞社会面において、阿蘇市の住民訴訟控訴が福岡高裁で棄却され、市が前市長に対して損害賠償金8359万円を請求するよう命じた熊本地裁の一審判決が支持されたことから、その請求額や手法についての解説記事が載っていて、興味深く読みました。
同記事の中では、阿蘇市が2021年に制定した、市長等の損害賠償責任の一部免責に関する条例の存在についても触れてあります。そのような条例の制定が可能になったのは、2017年6月地方自治法改正の施行によります。これにより都道府県や市町村は予め条例で一定額以上の賠償について免責することが可能になりました(法243条の2)。ただし、条例であまり減免をしすぎることのないよう、政令で最低限支払わなければならない限度(賠償責任額)が決まっています。
記事によると、阿蘇市の市長の負担額について「重大な過失がないとき」は、年収の6倍を上限とするとありましたので、政令が定める最低限度額の通りのようでした。私が居住する宇土市においても同様の条例が1年前の2024年7月2日施行で制定されていて、いずれも基準給与年額の乗数は政令の最低ラインとなっていました。具体的には、市長…6、副市長、教育長・委員、選管、監査委員…4、公平、農業、固定資産評価委員…2、職員…1となっています。なお、減免される可能性があるのは、その執行が「善意でかつ重過失がないとき」に限られます。
住民の中には自治体の各種の委員に選任される機会があります。そうなったときは、当該の自治体の条例を事前に確認することを勧めます。個人賠償責任補償保険加入という手もあるかと思いますが、どの程度効果があるのかは正直分かりません。公金支出を巡る住民訴訟では、首長らに数十億円規模の賠償を命じる判決が出たこともあります。実際に賠償責任を果たせず首が飛んだり首が回らなくなったりした例もあるようです。
もっとも住民訴訟は地方公共団体の財務会計行為の適正化を目的として起こされるものです(ただし、監査請求前置。法242条)。前市長の財務会計行為に過失があったために、巨額の損害を市へ与えたのですから、納税者である住民はただ指をくわえて見過ごす必要はなく、正当な権利を行使するまでです(正確には住民訴訟の原告の要件は当該住民であるということだけで、住民税非課税の住民でも原告にはなれます。法242条の2 1項)。
https://kumanichi.com/articles/1842014