『世界』2025年8月号の中から印象に残った言葉をメモしてみました。日本人よりも税金・保険料の納付率が高く、犯罪率が低いにもかかわらず、政治に参加する権利が制限されている外国人を、ことさら貶めたり排除したりすることでしか自尊心を満たせない、みっともない日本人たちが目立つ社会を感じます。同じ時代の同じ国内に住んでいながら、ファクトチェックが確かな情報空間にアクセスするか、それとも言った者勝ちフェイク混ぜこぜの情報空間にアクセスするかで、人間としての資質に大きな違いが生まれてきているように感じてもいます。以下の引用文には、メモ者による原文意を損なわない補正が含まれています。
・三牧聖子×中西久枝「12日の代償 米イラン攻撃は何をもたらすか」
三牧「(トランプ氏のイランの核開発問題は交渉より軍事力で解決という方向転換は)きわめて機会主義的判断だった」「そもそもギャバード国家情報長官は3月時点で、イランは核兵器を製造していない、と言っており」「アメリカ・ファーストは、融通無碍の発想」「イスラエルはイランへの攻撃を存亡の危機を打開するための先制攻撃としていますが、国際法上、許されない予防攻撃と位置付けるべき」「トランプ政権誕生後、ヤルタ2.0という未来予想」「トランプ流の世界観とは、よいディールができて、アメリカに利益をもたらす国は尊重すべきだが、アメリカに損をさせるような国は尊重する必要はないというもの」
中西「もしもアメリカとイスラエルが本当に体制転換を目標に考えるのなら、イスラーム法学者が標的にされてもおかしくない。おそらく、イランの現体制がすみやかかつ完全に崩壊してしまった場合、悪魔化する相手がいなくなる。それは望んでいないのではないでしょうか」
・望月優大「連載アジアとアメリカのあいだ第8回銃口を内側に向けた国の戦後」
「1848年のグアダルーペ・イダルゴ条約で巨大な領土割譲がなされるまで、カリフォルニアはメキシコの一部だった。それより前、1821年のメキシコ独立まではスペインの領土だった。さらには、スペインによる支配が始まるずっと前から、様々な先住民たちがそこで暮らしていた。トランプは、ロサンゼルスで『外国の旗』を掲げる抗議者たちを『動物』と呼んだ。だが、19世紀の半ばまでは、アメリカのほうこそが『外国』だったのだ。元々の住民は自分の意思で越境したわけではない」 ※トランプの祖父はドイツからの移民。
・最上敏樹「もはや時間はない アウシュヴィッツ解放80周年に」
「ユダヤ人の血統が純血を保ち、その集団がまとまって『流浪』したというシオニスト世界での通説も史実とかけ離れていることをシュロモー・サンドの『ユダヤ人の起源――歴史はどのように創作されたのか』は詳細に論証する。古代から別の場所に『移住』するユダヤ人は多く、エジプトにもローマ帝国にも住んだ。移住先で人々をユダヤ教に改宗させ、改宗による『ユダヤ人』を増やした。かつてユダの国と呼ばれたパレスチナは、7世紀にイスラム教徒軍に征服されたが、そこでユダヤ人が根絶やしにされたわけでもない。そのユダヤ人の末裔が今に残るパレスチナの農民である可能性すらあるのだ」「ホローコストを生き延びたユダヤ人の大部分は東欧出身である、主として現在のウクライナ東部にあたる地域で権勢をふるったハザール王国の出自を持ち、したがって現存するユダヤ人の祖先は、遺伝的にはフン族やウイグル族やマジャール人と深いつながりがある」「ジュディス・バトラーの『分かれ道』はイスラエルの行為を入植型植民地主義と呼んで、いまもヨルダン川西岸で続く『入植地』かくだいが、まさしく『植民地主義』であることを疑問の余地ない認識としている」「1975年の国連総会決議3379は『シオニズムは人種差別主義である』と述べた。アメリカが猛烈に反発したせいもあり、1991年の総会決議46/86により、それは撤回される。撤回は、その決議が誤りだったことを証明するものではない。いつの日かこの決議を再生すべき余地があるだろう。国際法によって動く国際社会を作らなければならない」
・奈倉有里「原始化される社会 ロシア内政学者が解説する教育・徴兵・法制度の現在」
「5月下旬、ロシア連邦国家統計局は、ついに出生率および死亡率に関する人口動態統計を、地域別も連邦全体も含めてすべて非公開とした」「このデータの非公開化の直接のきっかけとなったのは、2025年4月の死亡率が前年比で15%も増加し、それが国民の注目を浴びたためとみられている」
・宇野重規×国谷裕子「〈対談〉メディアは公共性を取り戻せるか」
宇野「情報空間A、情報空間Bという言い方をするなら、かつては多くの人が新聞や雑誌などの印刷メディアやテレビという情報空間Aを通じてものを考えていたのが、いまはSNSを中心とする情報空間Bへと人口がごそっと移動して、問題提起や論争の多くもそちらで展開されている。そとにいる人には内実はよくわからず――投票結果をみて初めて、実際に起きていることに驚かされたのです」「いま雑誌を最初から最後まで真面目に読み通す人はほとんどいないでしょう。実際、玉石混淆であり、通して読む必然性に乏しい。ただし、間違いなく面白い、大切な記事があります。漫然と読むとその他の記事に埋もれてしまいかねないし、単独ではその記事の意味がなかなかわからないかもしれない。それでも、心に留まった点を結んでいくと、間違いなくこの時代を切るようなコンテクストが見つけられるのです」
国谷「国民の知る権利の行使が難しくなってきていることに対して、執行権の肥大化をストップするための仕組みを積極的につくらなければならないのではないでしょうか」「日本政府は国連から繰り返し政府から独立した人権機関をつくるよう勧告されています。こうした機関も執行権を抑制するものとして機能する可能性があります」
・山本昭宏「『失敗』という本質 民主主義は幻滅から立て直せる」
「現代日本の政治的無関心は、以下の3つに分かれる。『1-①:新自由主義時代の個人主義』『1-②:代表制への不信』『1-③:過去の否認』」「2つの幻滅もある。『2-①:SNS時代の言論・運動への幻滅』『2-②:愚民論的幻滅』」「3つの『政治的無関心』を潜り抜け、さらに2つの『幻滅』をも突き破った新規参入の『目覚めた』有権者が『SNS炎上』を恐れない政治的な『インフルエンサー』を受け入れている。ときとして『動員させられた群衆』に見えてしまう新規参入者たちの『民主主義』の挑戦を、既存の政党・メディア・知識人は受けている」「私たちは敗戦以来80年間ずっと、『民主主義』を『失敗』し続けている。しかし、当然ながら、『民主主義』はつねに誰かの『失敗』を内包しているものだ。むしろ『失敗』にこそ民主主義の本質がある」「理想は嗤われていよいよ、理想になる。失敗したから理想論が言える。成功した者が言うと説教になる」
・有光健「戦争被害 放置されてきた軍民・内外差別」
『戦没者』には、例えば米軍の空襲で亡くなった民間人は含まれないのだろうか? 2025年3月5日付の質問主意書で上村英明衆議院議員が[『戦没者』の定義について、いつからいつまでの戦争で亡くなられた方々を指すのか、亡くなられた方々の範囲には民間人や子どもも含まれるのか、『戦没者』を規定した法律は何か]と質したところ、3月14日付の答弁書で[『戦没者』について、現行法令上、確立された定義があるとは承知していない]と石破茂首相名で回答している。そもそも『戦没者』の法的な定義はないのである」