死者の声を聴く

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熊本市現代美術館で現在開催中の「やなせたかし展」記念講演会を本日聴講してきました。講師は、やなせたかし氏と『詩とメルヘン』の編集に共にあたられた経験をお持ちの梯久美子さん。今年文春文庫から『やなせたかしの生涯』を出版された著者だけに、わずか定員100人の会場へ入れるか心配して訪ねましたが、幸い前から2列目の中央の席が空いていて、座ることができました。そしたら、すぐ後ろの席に地元紙の元論説主幹の高峰武氏がおられました。お会いしたのが、今年2月の『増補・新装版 企業の責任』出版記念フォーラム以来で、私からは先月訪ねた菊池恵楓園歴史資料館の展示のことなどを、講演の前に話したりしました。講演中は、私のような図体の者が前に座って視界を遮ってしまったのではと気になりました。
さて、梯さんの講演内容のほとんどは、上記の『やなせたかしの生涯』のエッセンスでしたが、講師としては「アンパンマン」原作者としてだけでなく、詩人や絵本作家としてのやなせたかし氏を評価すべきと強調されていたのが印象的でした。それと、誰に対しても怒らず責めない、やなせたかし氏の人格に対する強い信頼感が、講師の言葉から伝わりました。そのような人生の師に恵まれたことで、今日の梯さんの活躍も生まれてきたように思います。
やなせたかし氏が大切にする究極の自己犠牲の考えは、自身の戦争体験と弟の戦死の影響が大きいと言えます。
梯さんが昨年岩波新書から出した『戦争ミュージアム』のあとがきで、「戦争ミュージアムは、死者と出会うことで過去を知る場所であると私は考えている。過去を知ることは、いま私たちが立っている土台を知ることであり、そこからしか未来を始めることしかできない。」(p.210)と書いておられます。この言葉は、やなせたかし氏が戦死した弟の声を聴き続けてきた行為と重なる思いがしました。今回の「やなせたかし展」もある種の戦争ミュージアムを感じる展示でした。
一口に戦争ミュージアムといっても中には遺品や武器を展示しただけの単なる国威発揚の施設もあります(誤解がないように書き添えますが、『戦争ミュージアム』が取り上げた施設はまとなところだけです)。どのような死者の声を伝えようとしているミュージアムなのか、それらはやはり聴く耳をもった施設運営者の哲学によるところが大きいと思います。いずれにしても、『やなせたかしの生涯』と『戦争ミュージアム』を読んでいただければ、戦争の愚かさを伝える施設と単なる国威発揚の施設の区別はつくようになると思います。講演会後にサイン会の時間が設けられましたので、持参した上記2冊にめでたくサインを頂戴しました。感激です。ありがとうございました。
ところで、梯さんの経歴を知ると、私と同学年。共に熊本県生まれで父親が自衛官。北海道居住経験があります。私が先に北海道に渡り、梯さんはその3年後ぐらい。梯さんが北海道に渡った1年後の夏に私は熊本へ転出しますので、1年間だけ共に道民だったということがわかりました。
以下は、余談ですが、講演会の前に通りの向かい側にある「熊本マンガアーツ」で「北斗の拳」や「花の慶次」の原作者・原哲夫さんの作品展示もきょう観てきました。原さんの経歴を確認すると、生年月が梯さんと同じ、これまた私と同学年になります。「北斗の拳」では兄・ラオウと弟・ケンシロウという義兄弟関係がストーリーに登場します。こちらは柳瀬嵩・千尋兄弟とは異なり、一子相伝の北斗神拳伝承という目標が同じ者同士の関係です。原さんの場合はどういうきっかけがあって、この法定相続関係が複雑な兄弟設定の物語を創作したのでしょうか。未だにどんな内容の話なのか、理解できていません。