辻田真佐憲著の『ルポ国威発揚 「再プロパガンダ化」する世界を歩く』(中央公論新社、2400円+税、2024年)を読むと、国内外の約35カ所もの愛国スポットが紹介されています。私はそのいずれの地も訪ねたことがなかっただけに、新しい世界があるものだと視野が広がりました。なかにはサブカルチャー要素を取り入れた萌えミニタリー的な珍妙な場所もあり、それははたして戦没者慰霊として相応しいのかと疑問に思いましたが、管理関係者の声は、いたって大真面目であり、これはこれで愛国岩盤層の信念の逞しさを感じました。
著者によれば、国威発揚には「偉大さをつくる」「われわれをつくる」「敵をつくる」「永遠をつくる」「自発性をつくる」という5つの要素が存在するといいます。本書を読んで私なら実際に取材地を訪ねてみたいかというと、そこまでは思いませんでしたが、何ものかを伝えたいという熱意は感じました。この使命感的な部分は、確かな歴史研究の上に成り立つ戦争ミュージアムにも重要なことだと考えます。
せっかくですから、本書の取材地で熊本県と縁のあるところを列記します。
・台湾高雄市鳳山区「紅毛港保安堂」…日本海軍の第三八哨戒艇(旧駆逐艦「蓬」よもぎ)の熊本出身の艇長・高田又男海軍大尉以下145名の戦没乗組員を祀る廟であり、高田艇長は神(海府大元帥)とされている。この廟には安倍晋三元首相像や安倍氏揮毫の石碑もあり、安倍支持者の聖地ともなっている。
・岐阜護国神社内「青年日本の歌史料館」…「青年日本の歌」とは、1932年に五・一五事件を引き起こした海軍青年将校のひとり、三上卓が事件の2年前に作詞した右翼民族派にとって自らの気概を示す歌(そのため「昭和維新の歌」とも呼ばれる)なのだそうだ。史料館は三上の遺品を保存する修養施設「大夢舘」(岐阜市)と護国神社が共同で設立した一般財団法人「昭和維新顕彰財団」によって運営されており2023年にオープンした。大夢舘の現舘主である鈴木田遵澄氏(取材時35歳)は熊本県在住。20歳のときに現役自衛官ながら国会議事堂で割腹自殺をはかり逮捕された過去を持つ。そのときに決起文に「青年日本の歌」の一節を引用していたとされる。
・人吉市桃李温泉いわくらの杜内「高木惣吉記念館」…アジア・太平洋戦争末期に米内光政海軍大臣をサポートして終戦工作に奔走した人吉市出身の高木惣吉海軍少将の遺品や資料を収めた記念館で2010年にオープンした。同館がある温泉旅館は高木の親族が経営している。さらに記念館は上記の紅毛港保安堂と連携している。
・球磨郡湯前町里宮神社内「軽巡洋艦球磨記念館」…日本海軍には艦名にゆかりのある神社より守護神を迎える伝統があり、軽巡洋艦球磨の艦内神社には市房山神宮の祭神が祀られていた。そのことが2015年に明らかになり、市房山神宮の里宮である地に2018年記念館は建った。展示内容は球磨に関するものより海軍全体に関するものあるいは「艦これ」関連のものがあり、カオス的らしい。本書では触れてないが、昨年7月に「艦これグッズ盗難事件があり一時閉鎖されたことがあった(その後盗品は戻り再開)。
