ブルース・W・ジェントルスン『制裁 国家による外交戦略の謎』(白水社、3000円+税、2024年)を読む合間に、2025年1月号の『世界』の記事を何本かまとめて読む進めたので、記憶にとどめたい記述の抜き書きは以下のように、まとめてのメモとなりました。その前に、『制裁』のP.37から次の記述を示します。「国家を維持し、反乱を未然に防ぎ、……臣民の善意を維持するための最良の手段は、敵を持つことである」。元は古典哲学者のジャン・ボダンの格言。
○「悪法と戦争 ロシア政府がチャイルドフリーを弾圧する背景」奈倉有里(ロシア文学研究者)…ロシアでは前代未聞の法が増加している。2024年9月末には、特殊軍事作戦参加者の刑事責任を免除する法律が採択された。刑事責任を免除されるだけでなく、訴訟手続きの司法段階での処罰も免除される。なんらかの罪状で逮捕された場合「被告」の状態ですでに契約兵になるかどうかの選択が可能で、戦争に参加するとなれば罪を犯した事実自体が帳消しになる。戦争参加時の勲章の授与いかんでは過去の犯罪歴までが抹消される。
○「地域社会の疲弊、マルチハザード化する災害 能登半島地震が問う災害対策の視座」廣井悠(東京大学)…自分で自分を守れない自助、コミュニティが崩壊して助ける人もいない共助、そして老朽化するのに防災投資どころではない公助という社会変化が今後は予想され、自助・公助・共助の隙間が増加して地域としての「対応力」が著しく低下する。
○「対談『光る君へ』の時代と政治」宇野重規(東京大学)×山本淳子(京都先端科学大学)…1000年前後の時代は、「怨霊」がもたらした平和な時代(山本):内戦がほとんどない時代。死刑制度がありながら、数百年の間、死刑の執行がなされなかった。暴力に対する忌避感とか嫌悪感があった。恨みを抱いて亡くなった人は死ぬと怨霊になって、強大な力をもって仕返しするという「負の連鎖」を知っていた。恋愛力が政治を変える?(宇野):政治の只中にあった人が、武力とか暴力を使って政治権力を得るのではなくて、恋愛の力で既存の秩序をひっくり返してしまう痛快さ。源氏物語が示す人徳・調整力(山本)・政治的なアート=技(宇野):異なるものの見方とか、利害を持っている人たちが共存するためにどうやって知恵を出し合っていくかが、本来の政治。敵対した相手を殲滅するとか、否定することを目的にしている政治は本来の政治ではない。日本型組織と摂関政治(山本):名前のある長を、お飾りのように置いて、実質的にやっていくのは番頭さんたちという、中心の空洞化が日本の組織の特徴=摂関政治(自分の娘を魅力的にする必要があるので文化的あるいは美的に素晴らしい娘に育て上げることを実行)。
○リレー連載「隣のジャーナリズム」欄「戦争を書く 自分を疑う」前田啓介(読売新聞記者)…2025年は終戦から80年にもなる。戦争の時代を再現するという営みは、今を生きる体験者の証言から、記録された証言の丹念な渉猟へと変えていくべき時期に来ているのではないか。
○「夜店」欄「変化のなかの『本の街』 神保町という現象」スーザン・テイラー(人類学者)…大学院レベルの研究では、しばしば❝So what?❞つまり「だから何なのか」という問いが投げかけられる。