無秩序の4年間の始まり

日本で言えば後期高齢者、日本国民男性の平均寿命まで4年を要しない78歳の右派ポピュリスト政治家が、世界随一の大国アメリカの大統領となりました。この人物は、自国第一主義を掲げていて、気候変動や核兵器の脅威への対処といった、人類共通の課題解決には興味も関心もないようで、国際秩序の価値を尊重してきた先進国を困惑させています。
しかし、アメリカ国民の大半は、生まれ故郷から一生離れることなく、ウクライナやガザの生活も知らずに過ごしています。ましてや海面上昇によって気候難民となりかねない人々が世界には多数存在することを考えたこともないに違いありません。
当のアメリカの地政学ストラテジストであるピーター・ゼイハン氏は、著書『「世界の終り」の地政学』のはしがきで、「アメリカがこれまでも試練を生き延びて繫栄してきたのは、地理的に見て大半の世界から隔絶されており、人口統計学的に見て大半の世界より人口構成が際立って若かったからだ。アメリカは現在も将来も同様の理由で生き延び、繁栄していくことだろう。アメリカの強みから見れば、現在の論争などつまらないものに見える。こうした論争が、アメリカの強みに影響を及ぼすことはまずない。」と書いています。
つまり、あの78歳の人物が大統領になろうがなるまいが、アメリカだけは世界の中でしぶとく生き延びていくというのです。アメリカは、エネルギーや食料を始めほとんど自給可能です。そのための広大な土地や豊富な人材と技術があります。資源というものは、そこにあっても採掘や精製の技術がなければ商品にはなりませんし、地理的あるいは国際関係的な要因で輸送できなければ、ただそこに眠っているだけということになります。
戦闘機のF35に使用されている7ナノの先端半導体こそ今までは台湾でしか製造できませんでしたが、それもアメリカ国内で製造する体制へ向かっています。たとえば、中国のGDPがいずれアメリカを抜くとしても、また仮に先端半導体の設計図を手に入れたとしても製造装置を手に入れられない以上、それを製造するのは無理な話です。
ところで、あの78歳の人物は、なぜこれほど大統領になりたかったのでしょうか。それは自国第一以前に自分第一だったからに尽きます。連邦法違反で起訴された事件については大統領に恩赦の権限があるため、自らを恩赦することができます。州法違反で起訴された事件については大統領に恩赦の権限がないものの、決着が先延ばしされる可能性が高くなると見られます。これで資産上の危機もしのげるのでしょう。あと、選挙運動期間中、当人が医師の診断情報を公開しないのは、頭髪の自毛疑惑が露になるからというのも、現地ニュースで見た覚えがありましたが、それも当分話題に上らなくなるでしょう。
とにかくアメリカの民意は、あの78歳の人物を選んだのですから、少なくとも4年、国際秩序をどう保つか、あるいはどう構築し直していくのか、日本もこの新しい環境にしっかり対応していく必要があります。