現在、慶應義塾大学総合政策学部教授とアジア開発銀行研究所(ADBI)のサステナブル政策アドバイザーを務める、白井さゆり氏が著した『環境とビジネス』(岩波新書、920円+税、2024年)は、これから政治や経済の場で世界的に活躍したいと考えている若者にはぜひ手に取ってもらいたい書籍だと思いました。
白石氏によると、世界の投資家が重視しているのが、温室効果ガス排出量の測定だと言います。それなしには削減目標も立てられませんし、削減貢献量もアピールできません。企業は自社の排出量が、スコープ1(企業が事業活動から自ら直接排出した量)、2(他社から購入した電力消費や熱・蒸気使用による間接的な排出量)、3(1と2を除く、上流から・下流までの過程における排出量)のそれぞれでどれだけあるかを把握し、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の基準に沿った開示が必要となります。企業の内部統制として、排出量の監視や評価がきちんと行われるような組織や人材の配置が重視されることとなります。
実際、米国ではカリフォルニア州(GDP世界5位に相当)を中心に、スコープ3を含む温室効果ガス排出量の開示の義務化の動きがあります。同州では2023年10月に州内で事業を行う年間売上高10億ドル以上の企業を対象に、気候関連の情報開示を義務づける法案が成立。日本企業がすべきことは進出先のくにでどのような開示要件が義務付けられようとしているのかを調査することとなります。すでにEU(GDP世界3位に相当)、豪州、カナダ、英国、ASEAN、香港、韓国、ブラジルが義務づける意向を発表していて、それが世界トレンドになっているそうです。
興味深いのは、米国共和党のトランプ大統領候補を支援するイーロン・マスクが代表の、EVメーカー最大手テスラが成長した一因に、民主党地盤のカリフォルニア州が行う自動車排ガス規制対策としてのクレジット制度があるという事実です。EVだけを製造するテスラが2022年に販売したカーボンクレジットの収入は17億8000万ドル(約2770億円)に達していて、この仕組みは他の民主党地盤の州を中心に取り入れられているとのことです。なお、テスラは世界最大のEV販売市場である中国でも生産を行っています。
著者は、「世界の大企業や大手金融機関は、気候変動・環境リスクの管理が、企業の取締役会と経営者にとって最も重要な決定になると肌で感じとっている。企業は生産・営業活動からの温室効果ガス排出量を減らしていかないと、いずれ株価や市場価値が大幅に低下したり、格付けや資金調達費用が高まっていく可能性がある」と記しています。さらに、この世界のトレンドは大企業だけでなく中小企業や上場していない企業にも影響があると示しています。それが商機と捉えられる人材を確保できた企業が利益を拡大できるのかもしれません。熊本県も半導体生産ばかりでなく環境経営に強い人材の育成にも力を入れたがいいと思います。
