8月24日の朝日新聞読書面の「売れてる本」欄において、脳科学者の毛内拡氏が補足説明しているヒトの脳のしくみの話がたいへん興味深く印象に残りました。説明によると、「脳はとにかく省エネがしたい臓器」とのこと。「過去の記憶や経験からあらかじめ『世界のモデル』を作っておき、その世界を見る」のだそうです。そのため、「私たちは脳が作った仮想世界を生きている。生の情報は使わずに、見たいと思ったものだけを見る。多くのすれ違いはここから始まる」といいます。それぞれの人が脳の中にもつ「世界のモデル」が違うのですから、そもそも分かり合えるはずもない、それよりも分かり合えないことを認め合うことが重要と書いてありました。
本稿ではありませんでしたが、もともと私たちの眼で捉えた映像情報が脳に伝わるまでは、時間差があります。地上波TVと衛星放送TVで同じライブ放送内容を視聴すると、衛星放送の映像が地上波のそれより遅れているのと同じで、常に過去しか実は見ていません。それだけではなく、脳の情報処理自体が仮想世界で実行されていると知って、ライブやリアルの世界は実は脳の外にしかないという気がして、これまた面白いと思いました。
ところで、本稿で紹介されている本は、日経BPから出ている、今井むつみ著の『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』。読んだことのない本でしたが、評者の毛内氏の上記の補足説明と提言(短絡的に答えを求める誤った効率主義ではなく、試行錯誤を許容する社会を求める)で十分満足したので、読むのはよそうと思います。
SNSに巣食う一部のレイシストや陰謀論者たちの脳の世界モデルあたりは、さぞかし最先端の省エネタイプ(※速い思考)なんでしょうけど、機知にとんだ言葉や視覚情報でもって上書きしてやるのを楽しんでみます。
※速い思考:心理学者のダニエル・カーネマンが指摘する概念。人間の脳は迅速で能率的な判断をするようにできていて、そのために一部の選択にバイアスがかかることを明らかにした。自分の脳がゆっくりと合理的に問題を考えていると自覚しても、私たちの頭は近道をし、感情に影響されている。自己中心主義(エゴセントリック)、可用性(アベイラビリティ)バイアス、確証バイアス、(快感を求め不快感を避ける)動機付け、情緒が特徴。対立概念は、意識的、論理的で、熟慮を伴う「遅い思考」。
さらに、昨夏読んだ、クリストファー・ブラットマン著『戦争と交渉の経済学 人はなぜ戦うのか』(草思社)に載っていた「平和工学者のための十戒」を以下に示します。
1.容易な問題と厄介な問題を見分けなさい
2.壮大な構想やベストプラクティスを崇拝してはならない
3.すべての政策決定が政治的であることを忘れてはならない
4.「限界」を重視しなさい
5.目指す道を見つけるためには、多くの道を探索しなければならない
6.失敗を喜んで受け入れなさい
7.忍耐強くありなさい
8.合理的な目標を立てなければいけない
9.説明責任を負わなければならない
10.「限界」を見つけなさい
※写真は記事と関係ありません。島根県観光キャラクター「しまねっこ」。