『弥生人はどこから来たのか』読書メモ(巻頭部分)

藤尾慎一郎著の『弥生人はどこから来たのか』(吉川弘文館歴史文化ライブラリー、1700円+税、2024年)を手に取ってわずか1割程度しか読み進めていないところの投稿なので、本稿は正確には読書メモとは言えないシロモノです。ですが、初っ端から何かメモを残しておきたい衝動に駆られるほど、本書は新しい知見を示してくれて大いに刺激感を覚えさせてくれました。
本書は冒頭、2023年4月から高校で使われている日本史教科書が60年ぶりに大きく改訂されたことを明らかにしています。具体的には、土器の出現を指標とする縄文時代と水田稲作の始まりを指標とする弥生時代の開始年代が大きく引き上げられ、それぞれ約1万6000年前(約3500年古くなる)と約2800年前(約400年古くなる)となったということでした。この時代の開始年代が大幅に遡ることになった要因は、AMS-炭素14年代測定法や酸素同位体比年輪年代法、DNA分析、レプリカ法といった先端科学技術の手法の導入によるものとされます。ちなみに弥生時代の前半期は前10世紀~前4世紀の約600年間にあたりますが、わずかな青銅器の破片を除き金属器はほぼ存在せず、基本的に石器だけが利器とされた石器時代だったとされます。なお、この時代の韓半島南部社会はすでに青銅器時代でしたし、メソポタミアでは楔形文字文明で知られるアッシリア帝国が滅亡へ向かっていた時期が含まれます。
ここでふと珍妙に感じたのは、歴史学の非専門家が出版にかかわった『国史教科書 第7版』(売価税込2000円)なる書籍が、紀伊國屋書店新宿本店の7月24日調べの週間売上ランキング3位に名を連ねている現象でした。第6版までのそれは文科省の中学歴史教科書検定不合格を続けてきたようなのですが、第7版になって初めて表紙に「合格」の宣伝文句が刷り込めたようです。同書の版元によると、今のところ紀伊國屋書店とアマゾンでしか取り扱われていない同人誌扱いの出版物とのことですが、皇統譜など伝説のたぐいの資料を掲載してそれを史実と思わせることを目的とする実に変わった読み物です。しかし、まともな歴史教育に接したことがない読者には、めでたくも歴史を学べたと喜ばれているのでしょう。
すでに触れたとおり弥生時代前半期半ばの前7世紀頃の日本列島には青銅の鏡も鉄の剣もない時代です。三種の神器どころか文字もなかった時代に覇権をなした勢力が存在しようもありません。要するに国史とは呼べず先史にあたる時期を、ある方向へ無理やり導くことが果たして学問と言えるのかということです。
自称「国史」に税込2000円を捨てるような愚かなマネは止めて、2000円もしない『弥生人はどこから来たのか』を読んで、未来ある中学生が歴史学習の道を踏み誤らないよう賢明な大人が導いてあげたいものです。