飼い犬か義勇兵か

朝ドラ「虎に翼」の本日放送回での主人公の「寅子」による「生い立ちや信念や格好で切り捨てられたりしない男か女かでふるいにかけられない社会になることを私は心から願います。」との毅然とした決意表明と、女性の服装を揶揄する司法試験の面接官に「トンチキなのはどっちだ。はっ?」と言い放った「よね」の信条の崇高さには、たいへん感動しました。司法の分野はもちろんですが、当時は女性に選挙権がありませんでしたから立法分野の国会議員、行政分野の大臣として女性が活躍できる場はなく、そのことだけでも国民の半数以上が虐げられていた時代がつい80年ほど前まであったことを思い起こさせました。しかしながら、現在の立法や行政の分野に携わる者の資質に接すると、ガッカリさせられることが多いですし、そのような資質の人物をのさばらせる国民の資質も問わなければなりません。
じっさい、水俣病患者団体と環境大臣との懇談会で、環境省職員がマイクの音声を切り団体側の発言を封じた、いわゆる「マイクオフ問題」を巡って、あろうことか患者団体側に非難の電話をかけるトンチキな方々がいることを、本日(5月10日)の熊本日日新聞が報じていました。環境大臣やその場にいて善処に動かなかった熊本県知事の「飼い犬」を自ら買って出るとは、なんとも下劣で哀れな行動としか言えません。おそらくは、水俣病の被害がいかに拡大し、多くの被害者が救済されずに死ぬのを待たされ続けている歴史に無知なのだと思います。
たとえば、3月の熊本県知事選挙を前に、水俣病の患者・被害者計7団体でつくる連絡会が知事選立候補表明者へ公開質問状を出したことがありました。その際の現知事の回答を要約すると、「国の患者認定制度の見直しは求めない」「公害健康被害補償法で対応し、特措法での救済漏れには対応しない」「健康調査の実施は考えない」の「ないないづくし3点セット」でした。そのときこのような環境省の意向に沿ったゼロ回答をした候補は他にいませんでしたが、この回答が何を意味するかも先の飼い犬たちには理解する力がないのだと思います。
一方で、冒頭の「寅子」や「よね」と同様に、世の中の不条理に対して闘う人物が常にいるのも希望です。水俣病裁判闘争の初期のころ、「義によって助太刀いたす」と患者支援に行動した、水俣病を告発する会の代表だった本田啓吉先生(2006年没)を、私は思い起こします。先生とは機関紙『水俣』編集を通じて生前お会いする機会がたびたびありましたが、いつも穏やかで激しい物言いをされる方ではありませんでした。だからなのか、時折この「義勇兵宣言」が気になります。何の義理がなくても不条理な環境に置かれた出来事があれば、黙って見過ごさない人間でありたいと思います。
なお、熊本県知事の職分の名誉のために付言すると、福島譲二知事(1999年没)と本田啓吉先生は、旧制五高時代に学生寮で同室の仲でした。片や大蔵官僚、片や高校国語教師と、進まれた道は異なりましたが、大義とは何かを思索し行動に移す真のエリート知識人の気概は共有していたと思います。