戦雲(いくさふむ)

三上智恵監督作品の映画「戦雲」をDenkikanで観てきました。2016年から2023年にかけて与那国島、石垣島、宮古島、沖縄本島には実に多くの自衛隊基地・弾薬庫が設置されました。さらに防衛目的の空港拡張や港湾整備が進められようとしています。与那国町の場合、住民の1割近くが自衛官となっており、基地のある離島は文字通り不沈空母状態となっています。有事の際には国民保護の名の下、島民全員を九州など島外に避難させるということですが、原発が立地している周辺住民の避難計画と同様、気象条件その他が必ずしも良好とは限りません。たとえ避難できても作物や家畜は置き去りですし、避難民は生業を捨てなければならないことになります。そもそも基地があるから攻撃を受ける可能性を高めているばかりか、全国民的にも巨額の国家予算を投入しなければならなくなったわけで、何を何から守るのかわからなくなったように見えました。
石垣市においては2015年自衛隊基地配備計画の賛否を問う住民投票条例制定請求の署名が市自治基本条例の規定を超える有権者の4割に達しました。しかし、市議会が住民投票条例案を否決し、さらには市自治基本条例から住民投票実施規定の条文を削除する蛮行に出て、現在それが裁判になっていることも映画で紹介されました。住民投票の手段を取り上げるなど、地方自治を自らの手で抹殺することにほかならず、それに加担する有害な首長・議員を生まないように、住民の不断の監視が必要なことを感じました。
※裁判についての補足:市民らは2019年9月、住民投票の義務付けを求める訴訟を起こしましたが、2021年8月に最高裁で敗訴が確定しています。2021年4月に地位確認の当事者訴訟を提起し、2023年5月(同年3月に基地開設)の一審判決は、住民投票の実施を規定する条例文が削除されたことから訴えを却下しました。2024年3月の控訴審判決で、福岡高裁那覇支部は、「確認の利益はあると認められる」とも判示しつつも、控訴を棄却しています。
映画を観る前に、本日の朝日新聞オピニオン面に掲載された元防衛官僚の柳沢協二さんのインタビュー記事を読みましたが、以下の発言が印象に残りました。「台湾の領土や政権を守るために自衛隊員や国民に犠牲が生じることを、日本の有権者として受け入れるのか否か。そのことを国民は考える必要があるのだと思います」「こういうとき気をつけなければいけないのは、英霊思想の台頭です。(中略)国家のために犠牲となることは有意義だとする、英霊の思想です。そこには、他者の人生を自分の道具と考える政治指導者のおごりがあります」。
https://www.asahi.com/articles/ASS4L2TMNS4LUPQJ00NM.html