ルポ無縁遺骨読書メモ

森下香枝著『ルポ無縁遺骨 誰があなたを引き取るか』(朝日新聞出版、1600円+税、2023年)を読んでいるところです。ちょうど昨日のNHKニュースでも「『相続人いない財産』過去最多768億円が国庫へ 昨年度」(※)と報じていました。現在、身元がわかっている人でも相続人がいない方が亡くなった場合、その方の葬送をどうするのか、残された財産をどうするのかが問題になっていて、その対象人数と遺産額は年々増えているようです。また、そうしたケースの場合に一線で対応にあたるのは市町村行政ということになっていて、その負担もたいへん重いものになっています。もちろん、そうならない手立てとして相続人がいない方が遺言書で遺贈先や遺言執行者を定めたり、死後事務委任契約を結んでおいたりする方法もあります。専門家はそういって済ませますが、本人がよほど終活に関心を持たない限り、そうした準備を行う人は増えないのではないかと思います。実際、孤独死者の平均年齢は62歳と意外に若いそうです(p.109 日本少額短期保険協会など2022年11月発表「孤独死現状レポート」)。
死は予期せずに到来するわけですから、それを前提に市町村に財政的負担をかけない葬送システム・遺産活用の制度設計があっても良さそうなものと考えます。市町村が、引き取り手のない死者の埋火葬のために適用する法律としては、葬祭扶助(生活保護法)と墓地埋葬法の2つがありますが、適用比率は9:1と極端に前者に偏重しています。そのカラクリは以下のようになっています(p.85-86参照)。
葬祭扶助…費用は国が4分の3負担、地方公共団体は4分の1で済む。
墓埋法…市区町村が全額立替払い。遺族が弁済請求に応じない場合は都道府県に弁済請求できる建前だが、支払ってもらえず市区町村が結局かぶるケースが多い。
死をめぐる費用負担の自治体ごとの違いは他にもあって、異状死の検案・運搬の費用が都内ほかでは公費負担ですが、神奈川県内だと遺族が全額負担となります。
また自治体の違いではなく地域の違いとして遺骨を骨つぼに入れる収骨のスタイルの情報も興味深いものがあります。東日本では「全収骨」、西日本では「部分収骨」のため、骨つぼの大きさも東日本の方が大きいようです。
あとは未整理のメモです。
横須賀市…「わたしの終活登録」事業。それをモデルに豊島区社協なども同様の事業を提供。
Casa…「家主ダイレクト」(孤独死保険付きの家賃保証サービス)
本寿院…ゆうパックで送骨する遺骨ビジネス。費用は1柱3万円。年会費・管理費は不要。
NPO法人つながる鹿児島…「つながるファイル」
長野市…「『おひとりさま』あんしんサポート相談室」。厚労省の「持続可能な権利擁護支援モデル事業」の指定を受けている。九州では古賀市が指定されている。
大田区…「見守りキーホルダー」(愛称:「みま~も」)。厚労省の「地域包括ケアの実現可能なモデル事業」の指定を受けている。都内各地で導入が進んでいる。九州では、日田市や小城市が導入済み。
いろいろ事例を知ると、自治体間の取組み格差を感じます。担当者の問題意識や政策実現能力の違いがあるかもしれません。それと財政負担能力の問題です。国庫に帰属する遺産を基金として国が管理して葬送や死後事務について発生する費用を市町村へ渡す、あるいは遺留金を金融機関から解約引き出す権限を市町村へ持たせる仕組みを構築した方が効果的にも思います。
先日観た映画『PERFECT DAYS』の主人公・平山の場合は、妹(または姪)が相続人となってくれる可能性がある続柄設定でしたが、「ほんとうにトイレ掃除(の仕事)をやってるの?」と兄に問いかける、裕福な妹がわざわざ面倒を引き受ける可能性は低く感じさせるところもありました。相続人がいてもアテにはならないという社会を前提に福祉政策を考える必要がありそうです。
(※) https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231224/k10014298341000.html