宗教の起源読書メモ

ロビン・ダンバー著の『宗教の起源 私たちにはなぜ〈神〉が必要だったのか』(白揚社、3000円+税、2023年)については、先月の投稿でも触れていますが、ここでは第5章以降の読書メモをアップしておきます。宗教について考察することは、ヒトの脳について考えることであり、政治やビジネスへの応用あるいは悪用にも連なる恐れも抱きました。
多くの日本人は、シャーマニズム宗教の神道(明治憲法下では国家神道として教義宗教化したともいえます)と教義宗教の仏教の二刀流なのですが、これは世界的に特異な例です。宗教以外の面で規格化された日本人共同体の内と外を認識している感じがします。日本語や戸籍・氏姓、風貌・肌の色の要素が高い気がします。
○第5章社会的な脳と宗教的な心
「友情の7つの柱」(p.129)…言語、出身地、学歴、趣味と興味、世界観(宗教、道徳、政治の立場)、音楽の好み、ユーモアのセンス。ヒトの場合は、これらの共通点が多いほど共同体のメンバーであるという信頼感が強固になる。
「メンタライジング能力」(p.141)…自分の観念を他者に伝達する能力(五次志向性のレベル)がなければ、宗教は成立しない。自閉症と診断される人はメンタライジング能力が低い。女性よりも男性が低い。
一次志向性/私は「雨が降っている」と思う。/宗教にならない
二次志向性/あなたは「雨が降っている」と考えていると私は思う。/宗教にならない
三次志向性/あなたは「人智を超えた世界に」神が存在すると考えていると私は思う。/宗教的事実
四次志向性/神が存在し、私たちを罰する意図があるとあなたは考えていると私は思う。/個人宗教
五次志向性/神が存在し、私たちを罰する意図があることを、あなたと私は知っているとあなたは考えていると私は思う。/共有宗教
○第6章儀式と同調
「宗教儀式」(p.156)…歌、踊り、抱擁、リズミカルなお辞儀、感情に訴える語り、会食。エンドルフィンが出やすい。儀式に参加することで他の構成員に対してより向社会的に接したくなる。共同体意識をつくりだす。
○第7章先史時代の宗教
「向精神性物質」(p.180)…アヘンやアルコールといった向精神性物質の存在は考古学的に1万年前までは確信をもってさかのぼれる。トランス状態の経験、ひいてはシャーマニズム宗教が存在していたことの決定的証拠となる。
「解剖学的現生人類(ホモ・サピエンス)が五次志向性を獲得できたのは約20万年前」…発話のための解剖学的構造の出現があって宗教は生まれた。トランス状態に入れるだけでは宗教にはならない。ネアンデルタール人は五次志向性を獲得できなかった。
○第8章新石器時代に起きた危機
「教義宗教への移行」(p.206)…人間がより大きな集落で暮らしていくには、その規模にあわせてストレスや集団内の暴力を減らす方法を見つけていくことが必須。明確な儀式と正式な礼拝所、専門職を擁する教義宗教への移行が始まった。
「高みから道徳を説く神(人間の行動になにかと関心を持つ神)の出現」(p.212)…大きな共同体のなかで団結し、おたがいを守るために必要とした。紀元前1000年紀がほとんど。
「主要な教義宗教は北半球の亜熱帯地方に出現した」(p.219)…熱帯地方ほど感染症の負荷が高くなく栽培できる期間が年に6ヵ月以上で食料生産能力が高く、交易しなくても自給自足ができた。しかし、人口が急増してくると、共同体間の紛争が激化した。大きな社会集団では新たな結束強化の手段として、教義宗教を必要とした。
○第9章カルト、セクト、カリスマ
「カルト指導者」(p.146)…統合失調型パーソナリティ障害を抱えている。ほかの人よりも激しい形で宗教現象を経験し、ひいては信仰の目ざめや強烈な宗教体験をひきおこす自己同一性の危機に陥りやすい。
「カリスマ指導者」(p.247)…多くが親を早くに亡くしていたり、恵まれない境遇で育ったりしたという。
「貧しく不安定な幼少期を乗り越え、厳然と立ちはだかる社会に挑まなければならなかった彼らは、人生の早い段階から多くを学び、逆境に立ち向かい嘲笑をはねのける精神的な強靭さを身につけたのだろう。」「シャーマンを筆頭に、神秘主義者は一般に定型からはずれた者が多い。精神的疾患を抱えていることが多く、それがトランス状態に入りやすい素因になっている。見た目や挙動が奇妙で、周囲からは狂人扱いされるが、それでも人びとは彼らのことを信じる。なぜ信じるのかといえば、ひとつにはその他大勢に埋没しない、突出した存在を頼みにしたいと思う気持ちがあるからだろう。とくに顕著なのはシャーマンで、人びとはかれらが超人的な能力を持っていると信じこむことが多い。」(p.248)
○第10章対立と分裂
「経済状態が良好で、富の格差が小さいと、宗教への関心が低下することはすでに指摘されている。貧困と抑圧の苦しみから逃れるのに、宗教に癒しを求める必要がないからだ。」(p.283)
一方で、「宗教がいまもさかんな地域は、世界のかなりの部分を占めている。」「南北アメリカ、アフリカ、南アジアなど、富の分配に格差がある地域では、キリスト教もイスラム教もさかんに信仰されている。」(p.284)