受託者責任を広げられないか

児玉安司著『医療と介護の法律入門』(岩波新書、960円+税、2023年)を読んでみて、判断能力のサポートを要する人の意思決定支援と、それらの人の利益を第一にする受託者責任(フィデユシアリー・デューティー)のバランスについて考えさせられました。ちなみに2022年現在の国内人口において65歳以上の人は、3600万人、全体の30%近くを占めます。その65歳以上の人口の6人に1人が認知症有病者であり、若年の障がい者も合わせると1000万人になります。つまり全世代を通じると12人に1人は潜在的に判断能力のサポートを要する人で日本社会は成り立っているというわけです。
日本国憲法13条は自由権を保障し、そこでは個人の自立、自己決定、自己選択、自己負担の「自由」が重視されると、上記書では書かれていました。2006年に採択された国連の「障害者の権利に関する条約」では意思決定支援が謳われました。一方、厚労省ガイドラインでは「本人が意思決定した結果、本人に不利益が及ぶことが考えられる場合は、意思決定した結果については最大限尊重しつつも、それに対して生ずるリスクについて、どのようなことが予測できるか考え、対応について検討しておくことが必要である。」というような、現場は結局どうすればいいのか戸惑う線で収めた作文なんかもあります。
「本人の意思」は大切ですが、それが必ずしも「本人の利益」にならない意思決定に周囲が直面することがあります。法定代理人のように受託者として法的に確立している立場の人は、「本人の利益のために」を第一にした権限が使えますが、そうではなくても周囲にはさまざまな支援者がいるはずです。法的には確立してはいなくても他人の利益の実現の手助けをしたいという人には受託者に近い存在として権限を行使することがあってもいいのではという思いにかられます。