英国芸術家協会フェローの経済人類学者であるジェイソン・ヒッケル著の『資本主義の次に来る世界』(東洋経済新報社、2400円+税、2023年)は、これから政治に携わる世代にぜひ読んでもらいたい本です。というのも、既存の政治家の多くはGDP成長=幸福の呪縛にとらわれていて、人類と地球の破滅を止められそうにないからです。本書の前半は「多いほうが貧しい」として破滅へ向かっている現実を指し示してくれます。正直絶望にかられ暗い気持ちにさせられます。後半は「少ないほうが豊か」として破滅を止める手立てを提示してくれて希望を覚えることができます。その手立ても具体的です。たとえば、大量消費を止める5つの非常ブレーキは、次の通りです。1.計画的陳腐化を終わらせる。2.広告を減らす。3.所有権から使用権へ移行する。4.食品廃棄を終わらせる。5.生態系を破壊する産業を縮小する。
現在、脱炭素社会の実現を目指してさまざまな技術革新が進んでいますが、効率化で脱炭素が進む以上に、大量消費の増加があって、実現が遠のいているのが現実です。そこを変えなければ取り返しのつかないことになるわけで、この警告に真剣に向き合う責任があります。ちょうど本書を読み終わったのが、豊の国と称された、豊前(現在の福岡県の一部)豊後(現在の大分県)を通るJRの車中でした。古代の人たちが感じた豊かさは何だったのでしょうか。
読書メモ
サイモン・クズネッツ:ベラルーシ出身の米国の経済学者。1930年代初めの世界恐慌を受け、米政府の依頼により現在のGDPの基礎になるGNPの測定基準を開発。GDPはその生産が有益か有害かは区別しないので、クズネッツ自身はGDPを経済成長の尺度にすべきではないと警告していた。
BECCS技術:CO2回収貯留付きバイオマス発電。2001年に豪州の学者、マイケル・オーバーシュインが論文発表。グリーン成長を楽観視するIPCCの公式モデルに組み込まれたが、気候科学者のケヴィン・アンダーソンは2015年、サイエンス誌で「不当なギャンブル」と批判した。オーバーシュイン自身も大規模な導入は社会的・生態的な大惨事を招くと警告している。
リチウム1トンの採掘に50万ガロンの水が必要:採掘による水質汚染が南米では発生。
国民1人当たりのGDPは比較的低くても平均寿命の長い国や教育レベルが高い国が存在する:公共財が充実している国がそうである。公的医療保険、公衆衛生設備(飲料水と下水を分ける)、公教育、適正賃金。
内在的価値(人生の有意義さ):コスタリカのニコヤ半島の平均寿命は85歳。コミュニティの存在が長寿の理由。
木が人に与える行動の影響(健康と幸福の向上):より協力的で、親切で、寛大になる。樹木が多い地域では、暴行、強盗、薬物使用などの犯罪が著しく少ない。フィトンチッドは、免疫細胞を活性化し、ストレスホルモンのレベルを下げる。街路樹が心血管代謝の向上につながったという研究もある。