選挙独裁の仮説

東島雅昌著『民主主義を装う権威主義』(千倉書房、5600円+税、2023年)には、権威主義体制あるいは独裁者の行動パターンにかかわる有益な情報が載っています。以下は著者が読者に示した仮説であり、いずれも根拠データに基づいて証明されています。
日本の国内政治を見る目としても役立ちますし、身近にいるボス気取りの人物の思考様式を判断するのにも役立ちそうです。

○天然資源が豊富な場合、独裁者は露骨な選挙不正をおこなう度合いが低い。
○独裁者がより強固な組織基盤をもつ場合、天然資源が選挙不正に与える負の影響はより大きくなる。
○野党の集合行為能力が高ければ高いほど、独裁者が重大な選挙不正をおこなう可能性は高くなる。
・・・財政資源や統治エリートを律する組織基盤に恵まれ、反体制勢力の脅威に晒されていない独裁体制ほど、選挙をより不正の少ないものへと「改革」する傾向にある。露骨な選挙不正の有無のみで民主化の進展を評価するのではなく、権威主義体制における民衆の支持の根本的な源泉が何であるかを綿密に調査する必要がある。(p.132)

○財政資源を豊富にもつ独裁者は、比例代表制を採用する可能性が高い。
○財政資源の豊富な独裁者が比例代表制を採用する可能性は、強力な組織基盤を有している場合に高まる。
○反体制エリートの脅威が強ければ強いほど、独裁者は小選挙区制を採用する。
・・・市民を動員する能力のある独裁者は、体制の強さを誇示するために比例代表制を採用するようになる一方、そのような動員能力をもたない独裁者は、統治エリートを効果的に取り込むために、与党に都合の良い議席バイアスをもたらす小選挙区制を採用する傾向がある。現代の独裁者の姿とは、暴力と強制に基づく選挙不正のみならず、一般市民の耳目に触れにくい選挙制度をも自らの都合の良いように戦略的に設計することで、巧妙に生き残りを図っていこうとする「民主主義的」な政治指導者である。(p.168)

○野党が参加している選挙では、野党が排除されている選挙に比べて、政治的景気循環の規模が大きくなる。
○あからさまな選挙不正の少ない独裁選挙は、大規模な選挙不正がある場合よりも政治的景気循環の規模が大きくなる。
○選挙権威主義体制における比例代表制の議会選挙は、小選挙区制の議会選挙よりも政治的景気循環の規模が大きくなる。
・・・政治的景気循環の存在は、政治指導者が長期的な政策合理性ではなく、短期的な政治的計算によって経済政策を操作している有力な証拠となる。選挙操作から経済操作へと選挙戦略を切り替えることによって、独裁者たちは選挙を自らにとって都合の良い制度的装置へと転換し、選挙のもたらす便益を最大化しようとしている。巧妙かつ資源と組織に恵まれた独裁者は、強制的手段よりもカネにものをいわせて人々の服従を買い取るようになることを示している。(p.193)

◎選挙操作をあまり行使せず、経済操作も怠った場合、選挙結果は現体制の弱さを白日のもとに晒すことになろう。(p.194)