川幡穂高著『気候変動と「日本人」20万年史』(岩波書店、2000円+税、2022年)は、古気候学や古環境学という学問分野があるということを知り、たいへん刺激的な本でした。海岸からさほど離れておらず、過去に浚渫や埋め立てが行われていない海底の表層堆積物を試料として酸素同位体比の化学分析を行い、過去の水温そして気温データ復元が可能となり、気候変動の歴史を知ることができるということでした。この同位体比分析の手法は、たとえば三角縁神獣鏡に含まれる鉛のそれを分析することで、出土品の産地の推定にも役立っています。日本人の由来については、ミトコンドリアやY染色体のDNA系統を追跡することで、その地理的起源が推定できます。文字記録が少ない時代の真実、つまり歴史の考証にいかに科学の知見が重要かという思いを持ちました。
現在の日本では移民・難民政策が大きな課題になっていますが、歴史をちょっと遡ると、移民や難民の存在が過去にもあったことがわかります。彼らの存在があってこそ、日本の存続に寄与した側面もあるといえます。水稲の遺伝子を追跡すると、弥生時代に来日して水稲栽培を伝えた人たちの故郷は、朝鮮半島よりも中国長江河口地域とみられます。日本の文明に貢献した人たちとしては奈良時代の渡来人(亡命者)たちが上げられ、今でいう高度人材といえます。
さらに歴史をさかのぼって出自を追っていくと、すべてはアフリカに通じます。現代の日本人も中国人もロシア人もホモサピエンスであることには変わりありません。著者は、ホモサピエンスの所以は「知恵」と「試行錯誤」と「協力と共有」と称しています。「試行錯誤」の最悪は戦争=環境破壊=人権蹂躙にほかなりません。大いに知恵を出し合う協力と平和の共有に努めたいと思います。
上記書のp.59には、「日本最古のホモ・サピエンスの遺跡は熊本県の石の本遺跡群で、年代は約3万7500年前を示す。」とあります。著者は、この最初のホモ・サピエンスは対馬ルートを経由して、日本に到達した可能性が高いと指摘しています。つまり、最初の「日本人」も、日本列島から湧いて出た生物ではなく、地続きだったアジア大陸からの移民でした。
同様に約2万3000年前までは日本列島にナウマンゾウが生息していたのも、氷期で海面が現在よりもずっと低く、大陸と列島が地続きだったからです。
それで、この石の本遺跡群はどこにあったのかというと、まさに熊本県立総合運動公園内にあります。発見のきっかけは第54回国民体育大会秋季主会場整備事業となっています。1999年の「くまもと未来国体」開催計画がなければ、これがわからなかったというのが、おもしろいですね。
https://sitereports.nabunken.go.jp/ja/15587
Jリーグのスタジアムでは、千葉や徳島が海面上昇(2050年までに24センチ!)により浸水リスクがあるそうです。
片や熊本は、日本最古のホモ・サピエンス遺跡の上に建つホームスタジアムを売りにしてみますか? 日本最古の移民タウン!?
https://www.asahi.com/articles/DA3S15647897.html