先月は日中国交正常化から50周年ということもあって、今後の日中関係をめぐるさまざまな意見を目にしましたが、国葬や旧統一教会、円安・物価高など国内課題の扱いが大きく、建設的な提言が目に触れる機会が少なかったように思います。相手方の中国にしても政体が中央主権的なので、党トップの振る舞いばかりが取り上げられ、中国国民の声なき声を知る機会が少ないのを感じます。一方において中国から日本に活路を求めて留学・就労する若者が増えてきているのは、日中関係の改善にとってはプラスに作用する期待が持てます。
さて、今読んでいるラナ・ミッター著『中国の「よい戦争」』(みすず書房、4400円+税、2022年)は、現在中国の政体下における歴史の扱い、特に国民党が主導した抗日戦争の扱いがどのようなものであるかを理解するうえで有益な研究だと思いました。抗日戦争に勝利したのち国共内戦を経て国民党政権幹部は台湾に逃れるのですが、抗日戦争中の首都であった重慶という都市は中国大陸から移せるわけもありません。国民党兵士として日本と戦った中国国民もすべてが台湾へ渡ったわけではなく、中国大陸に多くが留まりました。
そのため、三国志の時代の歴史は国内で伝えられても、国民党の功績に触れない訳にはいかない抗日戦争の歴史の伝え方が難しい時期があったというわけです。こうした事情を踏まえると、現代中国における社会科学系の学者というのは非常に制約があると感じます。国外の研究者の働きが重要になってきます。繰り返しになりますが、党トップの言い分だけ真に受けるのではなく、国民が口外しない記憶について知ると、日中関係だけでなく両岸関係の捉え方も変わる可能性もあると感じます。