グリーン水素

西宮伸幸著『水素社会入門』(KAWADE夢新書、890円+税、2021年)は、水素エネルギー開発の見取り図を理解するうえで、簡便な手引書として重宝しました。著者自身は1974年大学を卒業し、当時の通商産業省工業技術院へ進み、日本の新エネルギー技術研究開発(サンシャイン計画)の4本柱の一つとして水素の研究(具体的には金属を水素の入れ物として利用する水素吸蔵合金)を始めたそうです。通商産業省は現在の経済産業省であり、工業技術院は後の国立研究開発法人産業技術総合研究所です。この頃は水俣病第一次訴訟の熊本地裁判決が出て、世の中が公害に目を向け始めていました。水俣病の原因企業への追及に後ろ向きだった過去を持つ通産省が、太陽光や地熱と並んで水素エネルギーに関心を寄せていたのは意外な感じも受けます。ちなみに著者が工業技術院を退官してからの1986年から1989年に院長を務めたのが池袋暴走事故を起こして実刑判決を受けた人です。
本書は、一般向けの書籍ですので、一次エネルギー、二次エネルギーの区別から説明してくれます。水素を一次エネルギーとして使うこともできますが、二次エネルギーとしての利用の方が将来性は高いことも理解できました。エネルギーという言葉からは燃やすことのイメージが強いですが、水素が優れているのは貯蔵したり運んだりすることに向いている点があります。
その水素の作り方もさまざまで、CO2を排出しなければグリーン水素となりますし、CO2を排出しても回収可能ならブルー水素となります。グリーンやブルーといった色が付いているわけではなく、概念です。それにしてもさまざまな方法があって驚くと同時に、こうした開発の現状を知ることはビジネスチャンスをつかむことになると思いました。水素パイプラインが数多くこれからできてくるかもしれませんし、OH原子を有する惑星でエネルギーや水の生産が始まるかもしれません。