日別アーカイブ: 2025年10月9日

やれやれだぜ

移民政策に詳しい小井土彰宏氏が、インターネット時代に起こりがちな不毛な「論争」状況について『世界』2025年11月号掲載の寄稿(p.31)で触れていました。長くなりますが、引用してみます。「インターネットをはじめとする新しい情報ツール・情報環境は、情報の効率的な拡散・共有ではなく、全く基礎的な知識を持たない人々による、唐突な意見表明を可能にし、「議論」に参入する条件をつくり出してきた。ネット上へのにわか「論客」、疑似「専門家」のご登場である。基礎的用語や関連法制のリテラシーにも欠け、身近な事象と自分の実感こそがリアリティと信じ、海外の断片的なルポもどきとリンクすることでフォロワーを獲得する新たな発信者の出現とかれらの起こす「論争」は、事実の検証と政策論理の構築・精緻化をさまたげ、もともと脆弱な論争空間を破砕しかねない」。
たとえば、先々家族帯同の定住も可能な「特定技能」という新概念を導入することで、ブルーカラー労働者を日本に入国させ就労させることが初めて法的に承認されたのは、安倍晋三政権下の2018年12月の入管法改正でした。これは、少子高齢化とその帰結としての持続的な人口減と労働力不足という構造的な問題を乗り越えるためにとられた、国際的にも見ても真っ当な「移民」政策判断だったと言えます。
このおかげで、予想では毎年35万人以上外国人が増え続け、2040年に国内人口の10%が外国ルーツになるといいます。介護や建設、製造、物流などさまざまな分野(当然税金や保険料納付を含む)で日本を支えてもらっているのが現実で、この流れは続きます。
ただし、面白いことに立役者の安倍さんは、「移民」という言葉をタブー視し、公式用語としては頑なにつかいませんでした。安倍さんは「自分の内閣では移民政策は、これをとらない」と国会で答弁を繰り返していました。なお、この「移民政策をとらない」という芸風は、以後の首相も、先の自民党総裁選に立候補した5人も全員が踏襲しています。
このように、表向きの言葉と現実の政策とが乖離している事象を見破れないようでは、不毛な「論争」に陥ることが必定になります。それでも、冒頭に登場の、にわか「論客」や疑似「専門家」のたぐいを支持層に引き込める能力があってこその政治家であり、それが政治の世界なのかと思うと、やれやれだぜという気持ちにもなります。