ミネルヴァ日本評伝選のシリーズ本として2025年1月に刊行された大石眞著『井上毅』を読了しました。井上毅(1843-1895)は、明治政府の法制官僚として活躍した人物ですが、第二次伊藤内閣では文部大臣に任命され、1年5カ月余りの在職期間でしたが、教育行政についてもスピード感をもって成果を上げたことが紹介されていました。
在職中、高等師範学校卒業生を前に「一体教育とは恐ろしいものである。教育で国を強くすることが出来る、又教育で国を弱くすることも出来る。教育で国を富ますことが出来る、又教育で国を貧乏にすることも出来る……無教育の責任は大きなものである」(p.282-283)と説示しています。教員者に対して自覚と責任を促しているわけですが、同時に大臣である自分の責務を表明したものだと受け取れます。
井上は大臣に着任してから1カ月半後には伊藤総理大臣に「文部の事務釐正(りせい)[改正]を要する件」をまとめた「施設の方案を具へて閣議を請ふの議」を提出しています。これは、総合的な教育行政方針を示したもので、「政府に於ける今日の義務」として「財政の許す所に於て教育費を国庫より補助する事」などを通じて初等教育の普及を図ること、工芸教育を充実させること、高等中学校を改正して大学の改革を行うこと、女子教育を推進すること、私立学校を含めて文部省の統率・保護監督権を徹底することなど七件を挙げ、これが中途半端に終わらないよう「内閣の決議」を望むことを伝えています(p.283-284)。そしてそれらの政策は実現に向かうこととなります。
まさに仕事ができる人物でしたが、病身のため、大臣退任の翌年53歳で生涯を閉じます。もちろん明治時代に求められた教育と現代のそれとは異なるところもありますが、政治家の資質は時代が異なっても主権者である国民は問い続けなければならないことは言うまでもありません。
なお、本書の巻末にミネルヴァ日本評伝選の既刊・未刊を含めた一覧が載っています。その中に大学同窓の杉原志啓氏が「徳富蘇峰」と「松本清張」の担当著者であることが示されていました。いずれも未刊なので、刊行されたらすぐ手に取ってみたいと思います。