先日自宅火災で政治学者の猪口孝さんが亡くなられた報道に接してお悔やみ申し上げる次第です。同氏の配偶者であり現参議院議員の猪口邦子さんももともと政治学者でしたし、両氏の著書を読んだこともあります。特に当時40代前半の東京大学東洋文化研究所助教授の孝氏が編者として1988年から刊行された現代政治学叢書は、最終的に全20巻の完結はみませんでしたが、当時の各分野のスタンダードテキストとして世に出された優れた業績だったのではないかと思います。
叢書の執筆者の顔ぶれを眺めると、現在も活躍中の方もおられますし、そうした研究者との交流を形成された人徳がうかがえます。前熊本県知事の蒲島郁夫が東京大学に迎えられたのも、氏の後押しがあったからではないかと推察します。
その蒲島氏と同じく政治の実践の世界に入ったのが、叢書の著書で不戦構造の構築を研究した邦子氏ですが、残念ながらたとえば日本外交で力を発揮されているようには思われません。米国にはできない外交など日本ならではの役割に目を開いて活動してほしいという思いがあります。
昨日、宮田律氏の講演会を視聴する機会がありました。そのなかで、「(ネタニヤフらは)イスラエルによる全面的な支配を目指しているが、他方でこれには重大なリスクが伴うことに、彼らは気づいていない。」「イスラエルの一国支配の下、アラブ人たちを差別し、多数派のパレスチナ人をアパルトヘイトの下に置くのは、かつての南アフリカのように、世界中から強い非難を浴びることになる。」「イスラエルが生存を望むのであれば、パレスチナとの2国家共存のほうが理にかなっている。」と指摘しておられました。これは、一例ですが、日本がパレスチナ国家承認に向けて動くことは、外交的パワーを持つことであり、これも抑止力になることにつながります(多くの政治家が抑止力=軍事力と考えているのは、政治学的に大間違いです)。
宮田氏の講演資料の中に、1981年のアラファト初来日の写真があって、宇都宮徳馬参議院議員(元自民党衆議院議員)の姿がありました。不慮の事故で親族を亡くされたばかりの邦子氏に望むのは甚だ無礼だと承知で書いていますが、政治学者としての素養を備えた方であるからこそ、かつての宇都宮議員の見識にならった仕事に向かってもらいたいと願います。