日別アーカイブ: 2024年11月26日

戦争遺跡が語るもの

設楽博己編『日本史の現在1考古』(山川出版社、3300円+税、2024年)は、タイトル通り考古学研究の最前線を教えてくれる本なのですが、20本からなる章立てのなかに、菊池実氏による「近代日本の戦争遺跡を考える」論考が掲載されています。近代日本の戦争遺跡が、考古学的な発掘調査によって国内で初めて確認されたのは、2008年から2011年にかけて調査実施された熊本市山頭遺跡だそうです。これは1877年に勃発した西南戦争の遺構で、政府軍陣地跡からはスナイドル銃薬莢、薩摩軍陣地跡からは雷管といった遺物が出土しています。熊本県西南戦争遺跡は2013年に国指定史跡にもなっています。このように遺構や遺物は近代ですが、調査手法において考古学も活用されるので、本編に掲載されたようです。
近代日本の戦争遺跡の中でもとりわけ旧日本軍施設は、戦災による消滅だけでなく、敗戦時における意図的な破壊や関連資料の焼却、毒ガス弾に代表される砲弾類の処分など、証拠隠滅が徹底的に行われました(特に国外で多い。例:満州第731部隊跡)。そのような特殊な残存状況もあるので、考古学的調査研究の対象となりえる面があります。
本書では触れられていませんが、執筆者の菊池実氏は、「戦争遺跡保存全国ネットワーク」の共同代表を務めておられます。同会の目的は、「日本近代史における戦争の実相を調査研究して記録し、戦争遺跡を史跡、文化財として保存し、もって平和の実現に寄与しようとする団体・個人の連絡・協議を推進すること」とあります。本書p.241においても「戦争遺跡は過去の文化における負の遺産、しかも忘れてはならない事実の厳粛なる遺構でありモニュメントである。さらに地域が戦争で失った貴重なもの(それは人命であり、地域の自然や文化である)、そして地域が戦災のあと復興し生きてきた歴史(地域の開拓など)を考えるうえからも、戦争遺跡の調査研究・保存活用は重要なのである。」と書いておられます。
上記の全国ネットワークの運営委員の一員である高谷和生氏が実行委員を務める「空襲・戦跡九州ネットワーク」の第11回菊池集会が11月23-24日に開かれましたので、受講参加しました。率直な感想として発表者のレベルがまちまちでした。軍事史研究に傾倒している報告や発表者の問いが何で結局何を伝えたいのか分かりにくい報告もありました。いろんな調査研究の切り口があるのですが、単に調べましたで終わって歴史の中にその事実をどう位置づけるのかまで至っていないと感じるものもありました。たとえば発表スタイルをフォーム化したり、要約を事前提供してもらい査読修正の機会を設けたりするだけでも、質が高まるように思いました。
もっとも発表者のすべてがアカデミア出身ではありませんし、そういう発表の体裁に対して意見するよりも、まず活動を行っていることに対して敬意を払うべきという考えもあります。今回の開催地の菊池(花房)飛行場ミュージアムの運営を行っている団体では、地元の方のボランティアでその活動が成り立っています。ミュージアムの建物は菊池市の所有ですが、光熱費その他経費はすべて団体からの支出と聞いてなかなか継続できることではないと感心しました。