日別アーカイブ: 2024年10月30日

よりによって

イギリスの経済学者、ジョーン・ロビンソン(1903~1983)は、「経済学を学ぶ目的は、経済を語る者にだまされないようにするためだ」と言ったと、3カ月前に読んだ本(平賀緑『食べものから学ぶ現代社会』)に書かれていました。その論法で行けば、社会学の研究者には、社会を語る者にだまされない国民をひとりでも多く養成する使命があるのではと、勝手に考えます。
10月27日に水俣病センター相思社の理事会があり、翌朝、宿泊先の朝食会場で、理事のお連れ合いの社会学者と1時間ほど原発や戦争ミュージアム、歴史認識を中心に話をしていて、自然と話題は教育の役割や読解・言論リテラシシーへ移っていきました。その社会学者が語られるには、今の大学生は新聞を読まないし、事実は言えても自分の意見が語れず、教員が言葉を選ばないと学生に理解してもらえないなど、教員と学生の間での対話が成立しにくいということでした。いわゆる団塊の世代を頂点としてリテラシーは世代が若くなるほどに下がっているという見方をされました。私の周囲を見渡しても、たとえ難関大学卒の学歴を有する方や難関資格合格の専門職に従事する方であってもエセ歴史やエセ科学信仰に篤い例は多く見受けられます。文章を読む力がないとか、まともな文章を書く能力がないと感じる例によく出合います。
このことからも教育の果たす役割は非常に大きいと感じるのですが、来月、地元市主催で開かれる「こどもどまんなかの日」なるイベントの基調講演の講師に予定されている人物が、かつて「親学」を推進する「TOSS熊本」の中心メンバーであったフリースクールの経営者とあって、このような人物を講師として選ぶ市の思慮の欠如をたいへん残念に思いました。「親学」の提唱者や「TOSS熊本」のメンバーは、熊本県が全国に先駆けて2013年に制定した家庭教育支援条例に影響を及ぼしました。同条例は、親に対して「親としての学び」により「自ら成長していく」ことを義務付けるほか、(育児不安の解消や児童虐待の防止は、家庭教育のみで解決できる問題ではないのですが)公権力による保護者に対する過干渉というべき異様な内容が含まれています。TOSS は、科学的・学問的根拠はないヨタ話(「水からの伝言」「江戸しぐさ」)を教材として取り上げ、道徳教育にかかわっていたことでも知られます。加えて、同条例制定の「成功」に目を付けた旧統一教会の関連団体が、青少年健全育成基本法や家庭教育支援法の制定を求める意見書提出の請願運動を行い、本市議の一部が取り込まれたこともありました。
地元市の残念ついでにもう一つ事象を紹介すると、本年9月の定例市議会において「日本政府に核兵器禁止条約の参加・調印・批准を求める請願」が、賛成1・反対15で不採択となっていました(「うと市議会だより第87号」p.15より)。昨年は賛成4・反対13での不採択でしたから、核兵器廃絶を希求しない不見識な議員がさらに増えたことになります。なんとも情けない限りです。
写真は宿泊先からの風景(湯の児温泉)。