日別アーカイブ: 2024年8月13日

『暴力とポピュリズムのアメリカ史』読書メモ

11月に行われる米大統領選挙に向けた運動が今展開していますが、民主党の副大統領候補の経歴に州軍(ナショナル・ガード)勤務歴が20年あるとありました。しかし、他国の国民からすれば、この州軍がいったいどういう組織なのか、米国の歴史の中でどのような経緯で存在しているのか、ほとんど知らないと思います。そうした疑問に答えてくれるのが、専門の研究者であり、実にありがたいものだと思って、中野博文著の『暴力とポピュリズムのアメリカ史 ミリシアがもたらす分断』(岩波新書、940円+税、2024年)を読み終えました。
かつての帝国日本が満州へ送り込んだ初期の開拓移民は武装移民でしたが、米国の歴史をさかのぼると独立以前から武装の歴史があり、米国陸軍の始まりは独立前にあります。いわば、武装の権利がかなり強く保障される基盤があったようです。独立戦争や南北戦争、共和党と民主党、白人と黒人をめぐる歴史も、米国における武装組織とのかかわりで見ていくと、ずいぶん現代と見え方が異なる印象を受けました。現在は大きく分けて正規軍(連邦軍)、州軍、民間ミリシア(正規軍と国内外で行動を共にする民間軍事会社もあれば、国内での政治的主張をもった民間団体もある)とがあります。意外だったのは、正規軍は現在最小限の規模に留め、その人員確保のために一定の軍歴を果たせば大学学費免除や医療などの福利厚生の優遇を図っている点でした。米国では、軍隊が低所得層にとって社会保障が充実した職場の選択肢としてあるようです。ひとつに徴兵を行うと、地域社会で排除されやすい人材が集まりやすくなるため、その手段は避ける考えが定着しているようです。いずれ日本の自衛官募集も米国のように高等教育と福祉をエサに要員確保に動く政策が出てくるのではないでしょうか。