憲法学者の木村草太さんの5月31日のX投稿に、朝ドラ「虎に翼」を巡り以下の記載がありました。「新憲法ができて、いよいよ来週は、戦後家族法改正の話になりそうですね。私の考える家族法改正ハイライトは、『差別の仕組み』(朝日選書)第10章から13章「憲法24条と家制度」をご覧いただければ幸いです。」。それを受けてせっかく蔵書にもあるので、『「差別」のしくみ』(←これが正確な書名です)の「第13章 憲法24条と家制度(その4)――新民法と家事審判」の部分を読み直してみました。
印象に残った2点についてメモをしておきます。
まず、1点目は、「入籍」という用語を婚姻の意味で今日においても使うのはやはりふさわしくないということです。よく芸能人の結婚報告でこの用語が使用され、報道機関でもそのまま流されることがありますが、私はかねてから違和感を覚えていましたし、本書初読ならびに今回の再読でもますますその思いを強くしました。実際、同書p.151においても「なお、旧民法では、嫁入り(婿入り)する妻(夫)が相手の家の戸籍に「入る」ので、婚姻のことを「入籍」と言った。しかし、新民法では、婚姻する際には、新しい核家族を形成し、新しい戸籍を創ることになる。こうした現象を正確に表現したければ、「創籍」とでも言うべきだろう。」。新民法になってやがて80年近くも経つのに旧民法下の現象を指す用語が生きているのがなんとも不思議です。不思議と言えば、戸籍や夫婦同姓強制の制度があること自体、世界では珍しいのですが、そんな制度がない国でも家族は成立しているのに、その制度がないと家族が離散するかのような物言いをする人がいるのがそうです。家族が離散する可能性が高いのは、旧民法下においても戦争がもっとも高い原因であったことは間違いありません。
次に、2点目は、再読によって注目することになった、初の女性高裁長官を務めた野田愛子氏の思い出話です。この方は1947年に司法試験に合格するとともに明治大学を卒業しています。本書p.160に野田氏が先輩の立石芳枝先生(日本女性初の法学博士号取得者)に試験合格の報告をした際にかけられた、立石先生の言葉が紹介されています。それは、「憲法が変わって男女平等になったのよ。素晴らしいわね。」というものでした。野田氏は自著『家庭裁判所とともに』にも「家族制度のもとでの女性の劣悪な法律上の地位について、毎日のように講義をしておられた立石先生にとって、憲法改正に続いて改正民法が宣言した家族法上の男女の平等が、どれほどの解放感と感動をもたらしたか、痛いほどよくわかるのである。」と記しています。初読は、「虎に翼」の放送スタート前の時期でしたので、再読によって野田愛子氏や立石芳枝先生をモデルにした登場人物が現れないかと、楽しみが増えました。反面、皮肉なことに、当時の法律家にとってこれだけの感動をもたらした憲法を、今の自民党改憲案では徴兵制導入合憲と読めるように劣悪なものに変えようという動きすらあり、複雑な気持ちもあります。