阪井裕一郎著の『結婚の社会学』(ちくま新書、1000円+税、2024年)を読み終えました。振り返ると、今月、ちくま新書から刊行された本を3冊連続で手にしました。手ごろなボリュームなので気楽に読めるのが強い動機になったのかもしれません。
さて、「結婚」についてですが、民法では「婚姻」と称します。これにかかわる問題として、同性婚法制化や選択的夫婦別姓制度導入についての論議が出ていますし、少子化対策と結び付けて結婚を促す論調もあります。
そのようなことに関心を持って手に取るであろう読者に対して、著者は「本書の基本的な姿勢は、『結婚をめぐる常識を疑う』というものです。」と、序章で宣言しています。さらに、「社会のあり方や人間の行動を解明するために常識を疑うのが社会学である」と定義づけして見せます。また、「本書は少子化対策について論じた書ではない」ともあらかじめ断りを入れています。
まずこの点に好感を持ちました。政治家や行政に携わる人でなくても、だれしも社会政策に対する意見は持ち合わせていると思います。しかし、その意見を形作る上で各人が有する結婚や家族の姿・価値観はさまざまです。特定の理想像に固執すれば、それに引きずられた意見に当然なってしまいます。極端な例で言うと、特定のカルト宗教の教祖が示す結婚や家族の形態だけしかその存在を認めないと考える人たちは、どうしてもそれに沿った社会政策を求めようとします。
ただし、現実の社会にあっては、多くの国民の利益になるのかどうかを考えなければなりません。結婚や家族の現実の姿を知ったうえでないと、有益な政策にはならないということです。
海外との比較データを見ると、晩婚化や晩産化は必ずしも少子化の要因とは言えません。女性の就労が普及した国ほど出生率が相対的に高いデータもあります。結婚の規定は最小限にとどめたうえで、結婚を中心に据えるのではなく、それも人間の支え合いの関係のひとつの選択肢として位置づけなおす必要を著者は提言しています。
本書から紹介したいデータや論点はさまざまあるのですが、キリがないので、p.284から最後にひとつだけ紹介しておきます。「社会学者のジェニファー・グラスらは、OECD22カ国の分析から、子育て支援などワークライフバランス施策が充実している国ほど、子どもを持つ親の幸福度が高いことはもちろんのこと、子どもを持たない人たちの幸福度も高くなることを明らかにしています。」「ケアを幅広く対等に分担できる社会制度を構築することによって、はじめて個々人の自由なライフスタイルが可能になるという視点が重要です。」。
こうした視点を踏まえると、同性婚法制化や選択的夫婦別姓制度導入によって幸福度が高まる国民がいることがあっても、それで幸福度が低くなる国民はいないと思います。社会学は実に気持ちが明るくなる学問です。
