日別アーカイブ: 2024年4月14日

無権利者から財産を取得した者の保護

朝ドラの「虎に翼」のストーリー展開には、法律の専門家も興味津々みたいです。明治民法の下での裁判で、妻が離婚成立に伴い夫の保護下にある財産(実母から渡された着物)の返還を求めた訴えに、憲法学者の木村草太さんが「『その色留袖は、妻が使用貸借していたのみで、所有権は妻の母(管理権は夫たる父)にある』と構成してみてはどうか?」と、Xにツイートしていました。私もこのドラマは面白いので毎度視聴しています。こうした法律的突っ込みを行ってみると余計楽しめる思いがしました。
ところで、今月11日、日本橋高島屋での展示販売会「大黄金展」の会場から、純金製茶碗(販売価格1040.6万円)が盗まれる事件がありました。幸い翌々日の13日に警察は窃盗容疑で職業不詳の男性容疑者(32)を逮捕したとありましたので、刑法犯罪としていずれ起訴されることとなると思いますが、問題は日本橋高島屋(以下「A」)が盗品(以下「甲」)を取り戻せるかです。
容疑者の供述によると、甲を事件当日に約180万円で、買い取り店(以下「C」)へ売却したとあります。さらに、警察の調べでは、既に転売されたとみられますので、甲の占有者(以下「B」)の存在もあります。ですが、転売先のBが特定されているのかが、本日現在、明らかではありません。
仮にBが甲を占有していることが分かったとして、Aは甲の返還を請求できるかが、問題となります。また、Bが甲を占有している間、展覧会収益を得ていたらその扱いも問題となります。下記のような主張が考えられます。
A→B Aの所有権に基づく返還請求権としての甲の引渡請求権と甲の使用利益返還請求権ないしは不当利得返還請求権の本訴請求。
(甲は盗品であり、民法193条には、盗難の日から2年間、被害者は占有者に対してその物の回復を請求できる規定もあります) ※2年間は権利行使の除斥期間であり出訴期間ではない。
B→A 甲の購入代金相当額の弁償を求める予備的反訴請求。即時取得の抗弁(反論)。
(民法192条に基づく即時取得の要件①動産を占有する者が取引行為によって当該動産を取得したこと②占有を始めた者が平穏に、かつ、公然と占有を開始したこと③占有を始めた者が占有開始時に善意・無過失であったこと)
A(再反論)→B 占有所得者Bの過失(前主Cの処分権限の調査義務を講じたかなど)
(Bが古物商であれば、古物営業法20条に基づき、Aは、Bに対し、甲を盗難または遺失の時から1年間は無償で回復することができる)
今回の事件の場合はリアルな店舗を介した転売でしたが、誰もが売買できるネットオークション・フリーマーケットアプリとなると、占有者の保護が重視されることとなるかもしれません。
果たして日本橋高島屋は訴訟に踏み切るでしょうか。私が担当者なら弁護士を儲けさせるだけの裁判は起こしません。穏便に占有者から購入価格に色を乗せて買い戻す交渉を行うでしょう。300万円だったとしてもデパートでは1000万円超で売れるのです。盗難に遭ったナラティブ付きのプレミアでもっと高く売れるかもしれません。デパートにとっても占有者にとっても悪い話ではないように思います。一番気の毒(=被害者)だったのは、茶碗の造形作家さんではないかと思います。だって、1000万円超の作品がおそらく原材料価格の約180万円でしか買い取ってもらえなかったのですから。
写真は記事とは関係ありません。佐賀県立名護屋城博物館の黄金の茶室です。

【4月15日追記】その後の調べで上記Bは古物商であり、純金製茶碗の所在もわかりました。となると、古物営業法の適用範囲となりそうです。