日別アーカイブ: 2020年9月21日

企業の名誉を保持する和解について

このところ、内田雅敏著の『元徴用工 和解への道 ――戦時被害と個人請求権』(ちくま新書、880+税、2020年)を読んでいました。著者は、戦時下の中国人強制連行・強制労働問題(花岡、西松、三菱マテリアル)など戦後補償問題に取り組んだ弁護士ですが、同書を読むと、外交関係の歴史にも明るく、非常に目配りのいい著書だと思いました。弁護士業務という観点からすれば、元徴用工の損害賠償請求事件がお金にならないことははっきりしています。国内法の知識だけでなく、国際法や国際人権基準、歴史についても深く知っておかなければ、踏み込めない分野です。しかし、花岡(旧鹿島組=鹿島建設)、西松建設広島安野(旧西松組)、三菱マテリアル(旧三菱鉱業)の和解は、被害者への謝罪・救済はもちろんですが、過去の歴史に向き合うことで、それらの企業の名誉も保持された面もあります。現在、中国人受難者数を大きく上回る韓国人の元徴用工問題の解決が問題になっていますが、これについても人権を侵害した日本企業にとって、過去の歴史に向き合い、国家とは別にでも謝罪・救済の機会を得られることは、むしろその企業にとって国際的な信頼を増す名誉を保持できる機会です。請求権協定を振りかざして日本政府が民間企業の自発的行動も妨害するとなると、日本国民の名誉をも貶めることになります。外交保護権の放棄や除斥期間などの法律論に逃げるのではなく、被害の実態があった史実がある以上、その解決を図る誠実な対応をむしろ積極的にとるべきです。
「日本は、戦後の国際情勢を巧みに利用して、本来、負わなくてはならない戦争賠償義務、植民地支配による賠償義務を免れてきた」(p.220)のは否めません。それにもかかわらず、ある歴史事件全体の中の一部の間違いを鬼の首を獲った如くに指摘し、その歴史事件全体を否定しようとする歴史ねつ造主義の残念な人々がいることも事実です。特に前政権はそれらの人々を利用した世論形成に熱心でした。このデマゴーグ手法は、ナチスがよく使った手口ですが、安全保障の観点からもたいへん危険です。