岩波書店発行の『世界』2026年4月号の[特集2]は、「少子化と教育格差」。そのねらいについて、発行元のサイトには次のように記されていました(▶は改行を示す)。「2025年の国内出生数は、68万人を下回る見込みとなった。▶ベビーブーム期の3分の1以下という急激な少子化が進行する一方、子育ての負担や保育・教育に関わる課題は噴出している。▶日本の公教育は、場所を問わず「教育の機会均等」を保障しようとしてきた。だが、少子化・人口減少下で綻びが広がり、その隙間に入り込む私教育では経済・文化・地域の格差が拡大しつつある。▶急激に進行する少子化は、子どもに、そして社会に何をもたらすのか。」。
この特集では、いくつか興味深いデータが示されていましたので、紹介してみます。
米国の家族人口学者であるサラ・マクラナハンが導いた指摘(2004年発表)によると、母親の晩産化や就業率の上昇、親の離婚の増加といった行動変化のうち、晩産化と母の就業は子どもの生活を安定させるが、離婚はウェルビーイングを低下させる傾向にあり、母親が高学歴で安定した生活を送る子どもと、母親が低学歴で資源の乏しいひとり親世帯で育つ子どもという、子どもの生い立ちとその帰結が二極化していく「分岐する運命」の顕在があるそうです。
実際、日本の子どもについてもそれは言えるようです。1995~99年出生児では90%以上が34歳以下の母親から生まれていましたが、2015~19年出生児ではその割合は69%にまで低下し、母親が35歳以上だった割合が30%を超えています。この20年間で母親の年齢が確実に高年齢化しています。続いて、父母の学歴の組み合わせ別の構成変化を見ると、父母ともに非大卒が減り、父母ともに大卒の出生児の割合が上昇しています。母親が大卒の割合は、1995~99年出生児の37%から2015~19年出生児の50%に達していて、今後は母親が大卒である子どもがマジョリティとなると見られます。さらに、子どもが1歳時に母親が正規の職員として就業していた割合は、1995~99年出生児では16.8%ですが、2015~19年出生児では36.8%に達します。子どもが6歳時の母親の配偶関係構成の変化について見ると、1995年以降、母親がシングルマザーである割合は低下傾向にあり、2人親のもとで育つ子どもの割合が上昇しています。離婚理由にはさまざまなものがあり、その状態をもって非難するのは大間違いです。資源に恵まれた子どもとそうではない子どもとの格差があることに政治が目を向けて低所得やひとり親世帯の子どもに手を差し伸べることが重要です。
もう一つ知っておきたいデータとしては、多様な文化的・言語的背景をもつ子どもが増加しているということです。2024年に日本国内で生まれた子どもは71万人ですが、そのうち父母が日本人の子どもは67万人、父母の一方が外国人の子どもは1万6千人、父母が外国人の子どもは2万3千人であり、出生総数の5.4%が両親のレベルで外国にルーツをもつ子どもとなっています(2024年の日本国籍出生児の2.3%は父母の一方が外国人です)。外国の文化的・言語的背景をもつ子どもについても特に母親が高学歴、正規職員である割合が高まっているそうですが、やはりその背景を考慮した支援は求められると思います。
以上が、国立社会保障・人口問題研究所の岩澤美帆氏の「「子どもが減る社会」の実相 データで捉える子どもとその環境」からの読後メモでした。以下は、ハーバード大学アカデミー・スカラーの打越文弥氏の「「手に職」系学部の増大とジェンダー格差」からの読後メモになります。
近年の日本の大学では、看護系や薬学系、保育系、社会福祉系といったケア領域の「手に職」系の学部が増えているそうです。それがどのような大学で増えているかと言うと、入学難易度が比較的容易な非銘柄大学、比較的歴史の浅い私立大学に多いようです。しかも定員割れに苦しみ生き残りを迫られた地方の私立大学に偏在する傾向にあります。女性資格職と結びついていた短大が四大へ昇格した背景もあります。
私立大学のタイプ別にみた「手に職」系学部に在籍する学生が占める割合(注:数値はグラフからの読み取りのため大まかです):私立大学A群(早慶GMARCH旧設8医科大など)7%、私立大学B群(1960年以前設置)13%、私立大学C群(1960年以降設置)25%
地域別にみた「手に職」系学部に在籍する学生の割合:北海道・東北25.1%、関東15.9%、中部24.3%、近畿17.9%、中国・四国27.3%、九州・沖縄25.4%
選択肢が豊富な(潰しが効く)難関大学は都市部にあり、それら遠方の大学に進学するには高校生自身に周囲の大人を納得させるような合理的理由を提示する必要が哀しいかな求められています。このことから、進路選択を通じた男女の分離が強まらないか、大都市圏に比べて職業的な多様性に限りがある地方においては、高校生女子の将来の選択が、より制約されてしまうのではないかと考えられます。
入学前に専門を決める入試制度と私的負担に加えて、日本の企業特殊的なスキル形成もとりわけ女性には足かせとなっています。日本では、企業特殊的スキルのレジーム下で得られたスキルは、その企業に特殊的である(と信じられている)ため、同業他社であっても通用しないと考えられて、出産・育児によって就業中断を経験しやすい女性には不利な労働市場となっています。その意味では「手に職」に対する志向性は「合理的」ですが、やはりジェンダー格差という問題は残ります。
高学歴高所得の親なら子どもの教育環境と将来を考え、やはり都市部で居住したがるでしょう。「手に職」系の学部設置で生き残り戦略をとってきた地方の大学も、先行きは暗いようです。そこの卒業生も生活のことを考えればやがては都市部へ出て行くでしょう。高度なスキルを要する企業であればあるほど人材確保のため都市部に留まり続けるのではないかなと思います。